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ジェリービーンズ 小説


光に導かれて・・・

マール王国の首都マザーグリーンから不思議の森をぬけると、
オレンジ村という小さな村がある。
村の名前にもある様に、オレンジがたくさん実る温暖な気候ののどかな村。

ここには、小さな教会がある。
その教会にいるひとりのシスターに憧れて、遠く離れた街から
オレンジ村にやってきた少女のお話。




「やっと着いた――。
ここがオレンジ村・・・あの人がここにいるのね・・・」

故郷の港町ブルーキャットからこのオレンジ村までは
小柄な少女にはとても長い道のりだっただろう。

肩につくくらいの長さの髪は、ふんわりとしたゆるやかなウェーブがかかっていて、
つややかな銀色。

マール王国では珍しい銀髪をもつ少女は、アメジストのような色の透き通った瞳を輝かせながら
期待に胸を膨らませている。

「あの・・・、すみません。
ここにシェリー・エスポワールという方はいらっしゃいますか?」

花壇の花の手入れをしていた女性に尋ねてみる。

「シェリーさん?今の時間だったら、きっと教会にいるわよ」

「ありがとうございます!」

きちんと一礼をして、少女は教会へと向かう。

「シェリーさん・・・わたしの憧れの人。やっと会えるのね・・・」

教会の扉の前まで来ると、少女の胸はドキドキが収まらないほど高鳴っていた。

震える手をぎゅっと祈りのかたちに組み、大きく深呼吸をひとつ。

そして静かに扉を開けた―――。

ステンドグラスを通して礼拝堂に降り注ぐ、色とりどりのやわらかな光。

その光の中、祭壇の女神像の前で長い金の髪のシスターが祈りを捧げていた。
祈りの後、透明感のある声で歌を歌う。

いつまでも聴いていたくなる様な・・・そんな歌。

「きれいな歌声――・・・」

少女は歌に聞き入りそうになって、慌ててシスターに声をかけた。

「あっ・・・あの・・・すみません!」

「?!」

いきなり声をかけられたシスターは驚いてこちらを振り向いた。

「あ、あのっ・・・シェリー・エスポワールさんですか・・・?」

「ええ、そうだけど・・・あなたは?」

「わたし、あなたに会いたくてブルーキャットから来たブリジッドといいます。
実は――」




「そうだったの。
それでわざわざ遠くからあたしに会いに来てくれたのね!」

「はい!わたし、シェリーさんと一緒にこの教会で働きたいんです。
シェリーさんの様なシスターになりたくて・・・」

「そんなこと言われると照れちゃうわ///」

少女は、ブルーキャットに立ち寄った旅人にオレンジ村(シェリー)の話を聞いて、
シェリーの様なシスターになりたいと思ったのだ。

シェリーはオレンジ村一番の美人で、清らかな心を持つ”女神さま”の様な人だとちょっぴり有名だった。

「でも、その旅人さんは大袈裟よ。女神さまみたいだなんて褒めすぎだもの///」

「そうですか?わたしは、シェリーさんのお話しを聞いたときよりも
実際にお会いしてからの方が本当の女神さまみたいに思いましたよ♪」

「もう、ブリジッドちゃんまで〜///」

「あ、そうだわ!ここで働きたいのならあたしが神父さまにお話ししてみるわ。
今日は神父さまは外出中で戻られないけど、明日には戻られるし・・・」

「本当ですか?ありがとうございます!!」

「今日はうちにいらっしゃい。
おいしいご飯で歓迎するわ♪」

「でも、ご迷惑じゃないですか?
いきなりやって来たわたしなんかがお邪魔して・・・」

「そんなことないわよ!娘も喜ぶわ!」

娘・・・、そうかシェリーさんは結婚されてるのね・・・
だから指輪してるんだ。
幸せの、証。




「ただいま〜。さぁ、入って!!」

「は、はいっ!」

部屋の奥から、ムスタキとコルネットが玄関まで出てきた。

「おかえり、シェリー。・・・お客さんかね?」

「ええ、あたしに会いに来てくれた可愛いお客さんなの」

「おかえりなさ〜い、おかあさん!」

小さなコルネットがシェリーに抱きつく。

「ただいま、コルネット♪」

「娘のコルネットよ」

コルネットの髪を撫でながらブリジッドに紹介してくれた。

「わぁ、可愛いvシェリーさんに似てますね!
あ、親子だから当然だけど///」

「ふふっ、ありがとう」




シェリーが夕食の準備をしている間、ブリジッドは小さなコルネットにラッパの演奏を聞かせてもらっていた。

「上手ねぇ、コルネットちゃん。誰に教えてもらったの?」

「おかあさん!こるねっと、おかあさんだ〜いすきっ♪」

「ふふっ、優しいお母さんだもんね」

「うん♪」

そういえばこの曲、さっきシェリーさんが教会で歌ってたのと同じような・・・




「ご飯ができたわよ〜!」

テーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。

シェリーの愛情たっぷりの、エスポワール家の暖かな家庭料理。

食事の前にシェリーは両手を祈りの形に組み、女神さまに祈りを捧げる。

「女神さま、今日も一日ありがとうございました。
感謝の気持ちを込めて・・・」

ブリジッドもシスターを目指しているので、シェリーと同じく祈りを捧げる。




食事をしながら、ブリジッドはシェリーに聞いてみた。

「さっき、シェリーさんが教会で歌っていたのは、どんな歌なんですか?」

「あの歌はね、大昔の人の子守唄なのよ。
コルネットが大好きだって言ってくれたの」

そうか、だからコルネットちゃんが演奏してくれたのもあの歌と同じ曲だったのね。

「素敵な歌ですね!わたしも好きになりました」

「本当?嬉しいわ、あたしも大好きだから」

「そういえば・・・。
ブリジッドちゃんの髪は銀髪なのね?
マール王国では銀色の髪って珍しいのに、神父さまと同じだなんて素敵な偶然ね♪」

「え?神父さまも銀色の髪なんですか・・・?」

「ええ。こんな素敵な偶然はきっと女神さまのお導きね!」

・・・わたしと同じ銀の髪の人・・・




翌朝、ブリジッドはシェリーと一緒に朝食の準備をした。

彼女の担当はコーンスープとジャガイモを使った料理。

「ブリジッドちゃん、お料理上手なのね!」

「そんな、シェリーさんには敵わないですよぉ〜。
でも、お料理は好きです♪」




「ブリジッドちゃんのお料理、お義父さんとコルネットに好評だったわね!」

教会のお勤めに向かう途中、シェリーはさきほどの朝食での出来事を話した。

「みなさんのお口に合うか心配だったけど、喜んでもらえて安心しました〜」

「本当においしかったわよ♪今晩のお夕飯はお願いしちゃおうかしら〜♪」

「えっ、今日もお世話になっちゃっていいんですか?!」

「もちろん♪あのね、昨日お義父さんに相談してみたの。
あなたがここでシスターを目指したいっていう事を話したらね、
家から教会に通うようにすると良いって言ってくれたのよ」

「あなたさえ嫌じゃなかったら・・・」

「・・・・・」

急に俯いて黙り込んでしまったブリジッドにシェリーは慌てて言葉を付け足した。

「ブリジッドちゃん?どうしたの?
あ、無理にじゃなくていいのよ??」

シェリーやムスタキの優しさにブリジッドは嬉しくて涙が溢れ出していた。

「違うんです、嬉しくて・・・申し訳なくて・・・」

いきなりやって来たわたしにこんなに親切にしてくれるなんて・・・
こんなに暖かい心の人に会ったのは初めての様な気がする。

故郷のブルーキャットにもこんなに優しい人はいないかもしれない。

「そんな、申し訳ないだなんて言わないで?
あたしたちは、新しい家族が出来たみたいで嬉しいんだから!
コルネットもお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいって言ってたのよ」

「ありがとうございます、わたし・・・すごく幸せです」

こうして、ブリジッドはエスポワール家にお世話になりながら、シスターを目指すことになった。




「ね、ちょっと寄りたい所があるんだけど、いいかしら?」

「はい、いいですよ」

教会の右隣にある、ちいさな墓地。
シェリーは、いちばん奥にあるひとつのお墓の前まで来ると、地面に膝をついて座り、優しく語りかけた。

「おはよう、マリウス。今日もいいお天気ね。
あのね、あたしたちに新しい家族が増えたのよ」

そう言うと、そばにいるブリジッドを見上げた。

「シェリーさん・・・?」

「ここに、あたしの夫が眠っているの」

「シェリーさんの・・・」

「コルネットが生まれる前に・・・天国へ逝ってしまったの・・・」

「じゃあ、コルネットちゃんはお父さんの事を知らないんですか・・・?」

「・・・ええ。
でも、あの子はあたしたちの願い通りに、明るく元気な良い子に育っているわ」

静かにそう話すシェリーを見て、ブリジッドはふいに話し始めた。
何故だか・・・自然に話していた。
ずっと・・・誰にも話したことなどなかったのに・・・。

「・・・わたしには、2つ上の兄がいたんです」

「ブリジッドちゃん・・・?」

「もう、だいぶ昔の事でわたしは兄の事をよく覚えてないけど、
お母さんが話してくれた兄は、とっても優しかったって・・・」

「わたしがコルネットちゃんと同じくらいの頃に、聖職者になるために
修行に行くと故郷を離れて・・・まだ戻ってきていません」

「そうだったの・・・。
もしかしたら、オレンジ村の教会の神父さまはブリジッドちゃんのお兄さまかもしれないわね♪」

「えっ?!」

「5年位前かしら・・・
このオレンジ村に新しい神父さまが赴任されたの。
今もその神父さまがオレンジ村の教会にいるんだけどね。
・・・マリウス。ブリジッドちゃんに女神さまのご加護がありますように、守ってあげてね」

シェリーさん・・・
わたしを元気付けるために・・・ありがとう・・・。



教会の前まで来ると、シェリーは立ち止まった。

「ちょっと待っててね。
先にあなたの事を神父さまにお話ししてくるわ」

そう言うとシェリーは教会の中へ入っていった。

教会の中へと入っていくシェリーの姿を見送りながら、さきほどのシェリーの言葉を思い出す。

「シェリーさんが言った言葉が本当だったらどんなに嬉しいか・・・。
いくら銀髪の人が珍しいからって、そんなに都合のいい事があるわけないよね・・・」

「ブリジッドちゃん、中に入って!」

「は、はいっ!」

急にシェリーさんに呼ばれたからびっくりしたぁ・・・




「あなたがここでシスターになるために働きたいと、
さきほどシェリーさんからお話しを聞きました。
小さな教会ですが、ぜひシェリーさんと一緒にここで頑張ってください」

シェリーさんが言ってた通り、神父さまも銀の髪をしていた。

優しそうな話し方、物静かな感じの素敵な神父さま。

「あ、ありがとうございます!わたし、一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします!」

「よかったわね、ブリジッドちゃん♪」

「はい!」

ブリジッド・・・?

シェリーさんがわたしの名前を言った瞬間、神父さまの表情が一瞬だけ変わったような気がしたけど・・・
気のせいよね。
わたしがあんなことを勝手に期待していたから、そう見えたんだわ・・・。




初対面の人とお話しするのが苦手なのと、教会のお仕事を覚えるのに必死で
神父さまとゆっくりお話ししたことがまだない。

早くシェリーさんの様なシスターになって、シェリーさんの役にたちたいから・・・

そうそう、シェリーさんがよく歌う歌、わたしも覚えたの。

今日もシェリーさんと一緒にこの歌を歌いながら、礼拝堂のお掃除。

明日はこの教会で結婚式があるので、普段よりも、もっときれいにしなくちゃ。

わたしと同じ歳の女の子と、その子の幼なじみとの結婚式。

礼拝堂をきれいなお花で飾りつけて・・・。
これでよし!

お掃除の後、わたしは祭壇の女神さまにお祈りをした。
明日、良いお天気になりますように・・・。
せっかくの結婚式だものね!




翌朝

わたしのお祈りが女神さまに届いたのかな。
穏やかなそよ風が心地いい、とってもいいお天気!
森から小鳥さんの囀りがそよ風に乗って聞こえてくる。
今日の結婚式を祝福しているみたい。

シェリーさんは、結婚式の準備のために先に教会へ行っているので
朝食はわたしが用意した。

わたしもすぐに教会へ行かなくちゃいけないので、とりあえず朝ごはんの準備だけ。

ちなみに、今日の朝食は
ミネストローネと焼きたてのバターロール。
それに新鮮レタスのサラダ。

今日のお料理も喜んでもらえるといいな・・・♪




「シスター見習い初めての結婚式、感動しちゃいました〜」

「あたしもよ。
自分の結婚式を思い出しちゃったわ〜」

「いいなぁ、結婚式。憧れちゃいます〜」

「ふふっ、ブリジッドちゃんの結婚式、絶対に呼んでね!
今から楽しみにしてるから♪」

「えっ、今から?いつになるかわかりませんよ〜?」

「あら、あたしはいつまでも待ってるわよ?」

シェリーさんの言葉の後、2人で笑い合う。
シェリーさんと一緒にいると、とっても楽しい・・・。
まるでお姉ちゃんができたみたい。

いつまでもこうして一緒にいられたらいいな・・・




それから数ヶ月後。

今日は、シェリーさんは用事があって教会のお勤めがお休み。
シェリーさんがいない教会は・・・今日が初めて。

うぅ・・・
どうしよう、神父さまと2人っきりだなんて・・・

シスターのお仕事はだいぶ慣れてきたけど、神父さまにはまだ慣れていない・・・
だって、お話する機会がないんだもん。

とりあえず、お掃除お掃除!
お祈りの前にきれいにしなくちゃ。

床のモップをかけていたら、神父さまが礼拝堂へ入ってきた。

シェリーさんみたいに自然にお話しできないからやっぱり苦手・・・(>x<)

「おはようございます。
お掃除ご苦労さまです」

いきなり声をかけられたからびっくり!!

「おはようございますっ!!」
今日はシェリーさんが、お休みなのでシェリーさんの分まで頑張りますねっ!」

「あっ・・・」

いつもは服の中へしまっているネックレスのヘッドが、勢いよくお辞儀をした瞬間に
服の外へ出てしまった。

外の光を通して降り注ぐステンドグラスの光がネックレスに反射し、優しく輝く。

わたしが生まれた記念に両親がくれた金のクロスのネックレス。
大切にしているから、普段は服の中にしまっている。

「それは・・・?」

クロスを見た神父さまがふいに問いかけた。

「これですか?
これは両親がくれたものなんです。
わたしが生まれた記念にって」

「わたしも・・・同じ様なものを持っていますよ」

「えっ?」

今、なんて・・・?

神父さまは、とても大切そうに布に包んである銀のクロスをわたしに見せてくれた。
よく見ると、わたしが持っているクロスにある様な模様が刻まれている。

・・・お母さまから聞いたことがある・・・
お兄さまもこれと同じ物を持っているって・・・

2人の子供にそれぞれお守りとして金と銀のクロスを渡したって・・・。

もしかして・・・神父さまは・・・

「わたしの妹も同じ物を持っています。
誕生した記念にと・・・わたしたち兄妹に両親がくれたのです」

その言葉を聞いて、確信した。

やっぱり神父さまは・・・お兄さまなんだって。

「エリアスお兄さま・・・?」

「ブリジッド・・・やっぱりわたしの妹のブリジッドだったんだね。
初めて名前を聞いたとき、偶然同じ名前の子なんだなって思ったよ」

「やっぱり・・・シェリーさんの言った様に、神父さまはわたしのお兄さまだったのね」

「大きくなったね、ブリジッド」

お兄さまは、わたしの目線まで屈むと髪を優しく撫でてくれた。

珍しいと言われる銀色の髪、同じクロスを持っていること・・・
それはただの偶然じゃなくて、女神さまが導いてくれたんだ・・・

わたしの家は代々、マール王国の女神さまを信仰する家系。
お父さまは昔、別の街の教会で司祭だった。
お母さまは、その街の出身で毎日お父さまのいる教会にお祈りに来ていて・・・
2人は女神さまに導かれるように出会ったんだっていう話を、小さい頃よく話してくれた。

わたしたちは女神さまとシェリーさんに導かれて・・・再開することができました。

偶然聞いた話からシェリーさんに憧れて・・・
思い切ってこのオレンジ村までやって来て・・・
最初から、女神さまはわたしがこうする事、わかっていたのかな・・・

再開を果たした今も、わたしとお兄さまはこのオレンジ村の教会にいます。

シェリーさんと一緒に。

† fin †


07/04/08

クルル人形館へ捧げます♪
感謝の気持ちを込めて・・・

*作者のコメント*

久しぶりにマールSSを書きたくなって、だいぶ前から
シェリーさんに憧れる少女のお話を書いてみたいなって思っていました。
今回、保管企画でお世話になっている、クルル人形館へプレゼントSSとして書くことができました。

サイトを運営している頃と違って
きっかけがないとSSって書けないのです(^-^;)

わたしは教会とかそういったものが大好きで、キーワードが”教会” ”神父さま”なので
お話書いているとき、幸せでした〜♪

このお話は、”懐かしき故郷へ”の続編というか・・・繋がっています。
単なる偶然で(笑)

久しぶりにイラストも描きました!
このSSのイメージイラストです。
・・・挿絵が描ければいいのだけど(汗)

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