[前へ] [小説一覧] [次へ]

ジェリービーンズ 小説


*--SWEET DREAM--*

ここはマール王国王都・マザーグリーン

マール城では国王夫妻が自室で午後のひと時を過ごしていた。

「そろそろお茶にしましょうか?」

妻のコルネットがソファで本を読んでいたフェルに声をかけた。

「そうだね、そうしようか」

フェルが同意すると、コルネットは嬉しそうな笑顔になる。

「じゃ、とっておきの美味しいケーキを持ってくるわ♪」

「あ、コルネット」

部屋を出て行こうとするコルネットを呼びとめ、ふと気になった事を尋ねる。

「クルルの事はいいのかい?」

「大丈夫よ、さっき眠ったばっかりだからしばらくは起きないわ」

自信ありげにそう言うと、部屋を出て行った。

「やっぱり母親なんだなぁ」

娘のクルルを出産してからのコルネットは、以前より変わったな、とフェルは思っていた。

一人の女性から母親へと変わったコルネットは、以前よりも

もっと綺麗になったな・・・と。

「お待たせ〜」

しばらくすると、コルネットが金のトレーを持って戻ってきた。

「今日はなんでしょう〜?」

「う〜ん・・・さくらんぼのお菓子かな?」

「当たり♪さすがフェルね」

フェルはコルネットの作るものなら、大抵当ててしまう。

「今日はねぇ、チェリーパイを焼いてみたの」

このチェリーパイは、コルネットにとって特別な思い入れがあった。

母・シェリーとの大切な思い出のチェリーパイ――

「レシピもお母さんと一緒に作ったのと同じなのよ」

パイ生地にチェリージャムを練りこみ、チェリージャムをたっぷり使って焼いたこのパイのレシピは
昔、シェリーが考えたオリジナル。

もちろん、チェリージャムもシェリーの手作りだった。

「美味しそうだね」

「わたしがフェルのために心を込めて作った、愛情た〜っぷりのチェリーパイだもん。絶対に美味しいわよ♪」

「あ、飲み物はさくらんぼの紅茶よ」

言いながらフェルの前にティーカップを差し出す。

「ありがとう。じゃ、いただきます」

「どうぞ♪」

こんがりときれいな焼き色がついたパイをフォークで小さくカットし、一口食べてみる。

その様子をじーっと見ていたコルネットが口を開いた。

「どう?」

「うん、すごく美味しいよ。やっぱりコルネットは料理上手だね」

「ふふ、ありがと」

「コルネット、覚えてるかい?」

「昔・・・僕たちが結婚する前、きみの家でお茶会をした時のこと」

「もちろん覚えてるわよ♪せっかくフェルのために焼いたケーキを
みんなマージョリーとミャオに食べられちゃって。あなたと一緒に作り直したのよね」

「そうそう、途中でクルルがつまみ食いしてたけどね」

2人で顔を見合わせ、自然と笑顔になる。

「あの時、すごく楽しかったわ」

「コルネット・・・」

少し寂しげに見えた表情が気になってフェルが口を開きかけたとき、コルネットは続けてこう言った。

「でも、今はとってもとっても幸せよ」

「大好きなフェルと結婚して毎日幸せ」

そっと立ち上がり、窓際に置いてあるベビーベットに歩み寄るとフェルにこちらに来てと手招きをする。

ふたりでベビーベットを覗き込むと、気配を感じたのか愛娘が目を覚ました。

艶やかな金の髪はフェルに、
新緑の森のような淡いグリーンの瞳はコルネットによく似ている。

「こうしてわたしたちの宝物を授かって、とっても幸せ」

そっと小さな手に触れると、愛娘は差し出したコルネットの指を小さな手で握りしめる。

「ね、クルル。あなたも幸せよね?」

「コルネット」

「僕も幸せだよ。きみと出会えたこと、結婚できたこと、クルルが生まれたことも全部。僕の幸せの全てなんだ」

愛しい妻に、優しく優しく囁くように。

「フェル・・・わたしも同じよ」

コルネットはクルルを抱き上げ、その柔らかな頬に優しくキスをする。

「生まれてきてくれて、ありがとう。クルル」

そんなコルネットを優しい瞳で見つめていたフェルは、心の中で静かに祈る。

そしてコルネットも心の中で静かに祈る。

愛しい人に、変わらぬ愛を。

そして幸せを。

いつまでも。

fin.

[前へ] [小説一覧] [次へ]