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ジェリービーンズ 小説


笑顔の魔法

「はやくあめ、やまないかな〜?」

窓枠に頬杖をついてコルネットが何度目かの小さなため息をついた。

「大丈夫!もうじき晴れるわよ」

とても残念そうにしているコルネットにあたしが声をかけてみても、
コルネットはまだつまらなさそうにしている。

「でもぉ〜」

「コルネットは雨が嫌い?」

「ん・・・」

あたしが聞いてみると、コルネットは小さく頷く。

「だって、おそとであそべないんだもん・・・」

「そっか。でも、雨上がりの虹はきれいでしょ?」

「うん!こるねっとね、えほんにでてきたみたいに
にじのはしをわたってみたいなぁ♪」

きらきらと大きな瞳を輝かせながらそう話すコルネットの可愛い言葉に、あたしは微笑んだ。

それから少したったころ頃、人形のクルルで遊んでいたコルネットが嬉しそうな声を上げた。

「わぁ〜!にじだぁ♪」

コルネットの言葉を聞いて、窓の外を見るといつの間にか雨が止んでいて
不思議の森の方から雨上がりの光を受けて、虹がキラキラと輝いていた。

「きれいねぇ〜」

「こるねっと、にじをみてくる〜!」

「あっ、待って、コルネット!森は―-・・・」

あたしの言葉が終わらないうちに、コルネットは家を出て行ってしまった。
森は危ないからひとりで行っちゃダメっていつも言ってるのに・・・。

急いでコルネットの後を追ったけれど、子供の足には適わない。
あっさりと見失ってしまった。

そういえば最近、不思議の森で巨大メタルカヘルとか不審なネコが出没したって
聞いたことがあるわ。
大変!早くコルネットを見つけないと・・・!!
あたしは両手をぎゅっと握りしめ、心から祈った。

「マリウス!一生のお願いよ、あの子を・・・コルネットを守って!!

*

それからしばらく森の中を走っていくと、遠くから小さな子供の泣き声が聞こえてきた。

あの声は・・・!

弾かれた様に、声のする方へと急いで向かうと
コルネットが地面に座り込み、大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら泣いていた。

「コルネット・・・!」

あたしの声に気がついたコルネットは、しゃくりあげながら必死に何かを言おうとしたけれど、うまく言葉にならない。

「どうしたの?怪我はない??」

あたしが優しく声をかけると、コルネットは小さく頷いた。

「あのね・・・、にじをみにいくとちゅうでね、きれいないしをみつけたの・・・
おかあさんにあげようとおもって、もってかえろうとしたら・・・ころんじゃったの・・・」

「そうだったのね・・・」

「それでね、ころんだときに・・・いし、どこかにいっちゃった・・・」

そこまで言うと、コルネットの瞳から、再び涙が浮かんできた。

コルネットの言葉にあたしの胸は愛おしさでいっぱいになり、
コルネットの小さな体をぎゅっと抱きしめた。

「コルネット、ありがとう。コルネットの気持ち、すごく嬉しいわ。
でもね、お母さんはコルネットの笑顔がいちばん好きよ。
だから、もう泣かないで」

「ほんと?」

あたしの服をつかんだまま、瞳に涙を浮かべながらあたしを見上げる。

「本当よ。笑顔はね、幸せをくれる魔法なの。
笑顔でいると女神さまが幸せをくれるのよ。
だからもう泣かないで、ね?」

「うんっ、こるねっとずっとえがおでいるぅ〜」

「ふふっ、やっぱりコルネットの笑顔は可愛いわね♪」

笑顔の大切さを教えてくれたのは、マリウスだった。
まだコルネットが産まれる前、あたしは愛する人を・・・マリウスを失った悲しみに囚われ、笑顔を忘れてしまった。
毎日、マリウスの事を想うたびに涙を流していた。

そんなとき・・・
淡い光の中からマリウスの声が聞こえた。
あのときのマリウスの言葉が、忘れてしまった笑顔を取り戻させてくれた。
そしてその大切さを教えてくれた。
だから、コルネットにもずっと笑顔でいてほしい。

忘れないで、コルネット。
笑顔は幸せをくれる魔法なの。

大きくなっても、笑顔を忘れないで。
いつまでも笑顔の似合うコルネットでいてね。
お母さんの”一生のお願い”よ♪

*fin*

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