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ジェリービーンズ 小説


*Wish*

*

古の神々よ
どうか、あたしの願いを叶えてください・・・

あたしが愛した者に変わることのない幸せを・・・

変わらぬ愛を・・・

そして

”笑顔”の大切さを・・・忘れてしまわないように・・・

― 1―

「ねぇ、マリウス。今日もどこかにスケッチに行くの?」

オレンジ村にある”人形館”

ここであたしは夫のマリウスと暮らしている。

頭上にはどこまでも続く青い空が広がり、眩しいくらいに輝いている。
あたしが洗濯物を干していると、マリウスが画材を持って庭に出てきた。

――あれ?今日はスケッチブックじゃない・・・キャンバス??

「今日は、ここでな」

そう言うと、マリウスは芝生の上に画材道具を用意し始めた。

「・・・ここって・・・」

「あ!わかった、風景画でしょ。”穏やかなオレンジ村の一枚”とかタイトルつけちゃったりして」

「バーカ」

ムカッ!

いきなりの”バーカ”発言にあたしの頬がピクリ、と引きつった。

「なによ!マリウスってばすぐに”バカ”って言うんだから!しっつれーしちゃうわっ」

半分冗談で怒ってみせる

片目でちらとマリウスの様子を盗み見る

笑ってる・・・?

「冗談!まったくシェリーはすぐに本気になるんだから。からかい甲斐あるよなぁ」

「・・・そうやってあたしで遊んでるわけね」

「まぁな」

・・・・・・・

一瞬の沈黙。

同時にあたしとマリウスは大きな声で笑いあった。

「・・・今日は、シェリー、お前が主役。」

ひとしきり笑った後、マリウスが優しく微笑みながら言った。

「えっ?あ・・・あたし??・・・なんだか照れちゃうわ///」

「オレ、こうやってシェリーを見てるのが好きなんだ」

マリウスのこの言葉にあたしの頬は真っ赤になってしまった。
・・・嬉しさと恥ずかしさで胸がドキドキと鼓動を打つ。

・・・あたしもこうやってマリウスを見ているのが好き。大好きよ――

何気ない日常

平凡な毎日

当たり前だと思っていた幸せ

この幸せがずっと続くと思っていた。

ずっと ずっと。

大切なものは失って初めてその存在の大きさを知る・・・

今まで気が付かなかった

愛するものを失う悲しみ

ううん、違う

気が付かなかったんじゃない

・・・考えないようにしていただけ

もう二度と同じ悲しみを繰り返したくないという強い思いがあったから・・・・

― 2 ―

「おかあさん?」

呼ばれてふと顔を上げると、目の前には最愛の愛しい娘の姿。

マリウスに似た色の髪、あたしに良く似た透き通ったグリーンの瞳。
薔薇色の頬は柔らかで、思わず触れてみたくなるような愛らしさ。

「・・・コルネット」

「おかあさん、どうしてないてるの?」

大きな瞳に不安げな色を落として、あたしの顔を見上げている。

「・・・え?」

コルネットの言葉に自分の頬に触れると、涙の粒が伝ってきた。

「涙・・・なんでかしら?」

「おかぁさん・・・」

コルネットがあたしの服の裾をぎゅっと握りしめ、今にも泣き出しそうな表情をあたしに向ける。

「ごめんごめん。お母さん、もう泣かなからね」

娘の目線に合わせてしゃがみ込み、にっこりと笑って見せた。

「ほんとぉ?」

「ええ、本当よ。ほら、コルネットも笑って!”笑顔、笑顔”!」

「うん!こるねっとね、おかあさんのえがおだいすきぃ〜」

「・・・でもかなしいかおは、きらい・・・」

「お母さんも、コルネットの笑顔は大好きよ。でも悲しい顔はやっぱり嫌い」

「じゃあ、やくそく!おかあさんもこるねっともずっとえがおでいようね!」

差し出される、小さな小指。

”約束”のしるし。

コルネットの小さな小指に自分の小指を絡ませる。

「ええ」

返事と同時にコルネットの小さな身体を抱き寄せ、柔らかな頬にキスをする。

自分の娘に、笑顔の大切さを教えられるなんて思ってもみなかったわ

幼い頃、ずっと大切にしてきた笑顔。

キール兄さまがあたしの笑顔が大好きだって言ってくれた。

そしてマリウスも・・・。

”笑顔は幸せを呼ぶ大切な物”だって教えてくれた。

そんな大切なものを、あたしはマリウスを失ってから
忘れてしまっていたのね・・・。

天国でマリウスは怒っているかしら?

でも、もう大丈夫!

あたしたちの可愛いコルネットがあなたの好きな笑顔を取り戻させてくれたから・・・。

古の神々よ
どうか、あたしの願いを叶えてください・・・

愛しいものに

笑顔の絶える事のない幸せが続きますように・・・

fin

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