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ジェリービーンズ 小説


逢いたい気持ち

よく晴れた日の午後。
マール王国王妃・コルネット・マールは自室で穏やかな時間を過ごしていた。

「夕食の支度までまだ時間があるし、もうちょっとのんびりできるわね」

そう言って、ソファから立ち上がりテラスへ出ようとしたとき、娘のクルルがいきなり泣き出した。

「クルル?急に泣き出したりしてどうしたの〜?」

顔を真っ赤にしながら、泣いている我が子にコルネットは優しく語り掛ける。
それでも泣き止まないクルルにコルネットはあることに気がついた。

・・・あ、そうだ。
こんなときは・・・

「♪なによりも 大切な愛しい人よ〜」

クルルを抱き上げ、子守唄を歌う。
わたしが小さい頃、よくお母さんが歌ってくれた子守唄。
クルルが泣き出したときは、この子守唄が効果を発揮する。

「ふぇ・・・」
歌いだしてすぐ、クルルが泣き止んだ。

「ふふ、やっぱり泣き止んだ♪この歌は不思議よね。
どんなに大泣きしても、この歌を聞かせるとすぐに泣き止むなんて」

あのとき、お母さんが教えてくれたっけ。
大昔の子守唄なんだって。

・・・わたしが16歳のときに会った、”クルル”の夢の中のお母さんに・・・。
実際、わたしはお母さんの顔をよく覚えていなかった。
でも、”クルル”の夢の中で再開したお母さんはとってもきれいで・・・
本物の天使みたいに見えた。

日の光を受けて輝く長い金色の髪に新緑の森のような淡いグリーンの瞳。

わたしの髪はお母さんには似なかったのかな?
金色というよりは、茶色に近い色だもの。
もしかして、お父さん似なのかな??

そんな事を考えていたら、フェルが帰ってきた。

「ただいま、コルネット、クルル」

「おかえりなさい、フェル。お仕事ご苦労さま」

愛しい人の笑顔を見ていると心の底から癒される・・・そんな気持ちになる。

「ん?クルル、泣いてたのかい?」

クルルの瞳がまだ涙で濡れていたことに気がついたフェルが人差し指でクルルの涙を拭いてあげながら言う。

「そうなの。どうして急に泣き出したのかわからないけど・・・。」

「・・・お腹空いたのかな?」

フェルの”お腹すいたのかな”の言葉で思い出した。

「あ!いけない、夕食の支度、まだしてないの!!」

慌てふためくわたしにフェルはクルルを抱きあげながら「急がなくてもいいよ、待ってるから」
と優しく言ってくれた。

「・・・ありがとう、ごめんね。」

厨房へ向かおうとしたとき、今夜のメニューを考えていなかったことに気がついた。
「・・・何にしよう・・・(汗)」

***

なんとか夕食を終え、クルルを寝かせるとふぅ、と軽くため息がこぼれた。
子育てって本当に大変だなぁ・・・。
国王という立場で毎日忙しいフェルも
子育てには進んで協力してくれている。
フェルには本当に感謝しています。

*

それからわたしはそっと窓際まで行き
大きな窓から見える夜空を見上げる。

フェルは先に寝ちゃってるけど、わたしは眠れそうにない。

「・・・お母さんのこと、色々考えてたからかな?」

「呼んだかしら?」

「えっ?!」

いきなり声をかけられ、びっくりしたわたしはよろけて尻餅をつきそうになってしまった。

「お・・・お母さん?!」
まさか・・・でもそんなことって・・・

目の前にお母さんがいるなんて、そんなことありえるわけが無いのに・・・

「そんなにびっくりした?」
お母さんはくすくすと笑う。
背に大きく広がっていた翼が淡い光の塊になると、すうっ、とお母さんの体の中へと入っていった。

「だって・・・。
・・・本当にわたしのお母さん・・・?」

「そうよ、あなたのお母さんのシェリーよ。忘れちゃった?」

一瞬、悲しそうな表情になったような気がした。

「ううん!忘れてなんかいないわ。・・・忘れるわけないじゃない・・・」

「ありがとう・・・いつも天国からあなたたちの事を見ていたんだけど、今日は思い切って会いに来ちゃった」

お母さんはベビーベッドを覗き込んで、すやすやと眠るクルルを愛しそうに見つめている。
「クルセイル、あたしの孫・・・」

「可愛いわねぇ。コルネットの赤ちゃんの頃にそっくり」

「お母さん」

お母さんの隣に立って、わたしもクルルの可愛い寝顔を見つめる。
そして、ずっと胸の奥にしまっていた事を話す。

「わたしね、今までクルルがお母さんの生まれ変わりだって思ってたの。
でも、今ここにお母さんがいるんだから違うのよね。」

隣に立つわたしを見ながら、お母さんはこう言った。
「コルネット・・・。あたしも・・・、あたしの生まれ変わった姿がこの子(クルル)だったら、なんて思ったりもしたわ」

「お母さん?」

「だって、もしそうだったらまたコルネットと一緒にいられるでしょ?
あなたがおかあさんで、あたしがあなたの娘、なんてね」

「ふふっ」

フェルとクルルが起きないように、小さな声で笑った。

「さて・・・、あたしはそろそろ戻るわ。コルネットも疲れているだろうからゆっくり休んでね」

「ねぇ、お母さん」

「なぁに?」

「また来てくれる?わたしたちに会いに・・・」

「ええ、会いに行くわ。今度はマリウスも一緒にね♪」

「・・・?」

「ああ、コルネットは覚えていないのね。マリウスはコルネットのお父さんよ」

「わたしの・・・お父さん・・・」

「そう。本当は今日ね、一緒に連れてくるつもりだったのよ。
でも、今日は眠いから後でいいって。
嫌よねぇ、せっかく娘や孫に会えるって言うのに」

「ふふっ、お父さんって面白いのね」

「そう?でも確かに面白いわね。結構遊んでるわ」

「お父さんで?」

「そうよ♪」

「そういうお母さんも面白いわよ♪」

「コルネットったら・・・もう〜」

「それじゃ、またね」

お母さんはテラスへ出ると、真っ白い4枚の翼を広げてふわりと夜空へ飛び立った。
お母さんの姿が見えなくなると、夜空から白い羽が数枚、ふわふわと落ちてきた。
その羽を手の平に受け取り、両手でその羽を包み込むように持ちながら
お母さんの羽にそっと願いを込めた。

「絶対にまた来てね、お母さん・・・」

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