[前へ] [小説一覧] [次へ]

ジェリービーンズ 小説


思い出の小さな宝物

これは、あたしが未来の世界へ来て初めてお菓子作りをしたときのこと。

「どう?おいしい?」

目の前にいるマリウスにドキドキしながら聞いてみた。

古代文明の時代にいた頃は、お菓子作りなんてしたことがなかったけれど
ちゃんと本を見ながら作ったんだもの。
マズイはずがないわ!

「・・・・・」

だけどマリウスはスプーンを持ったまま固まっている。

「マリウス?ねぇ、どうしたの?」

3秒くらい間をあけてやっとマリウスが口を開いた。
その口から出た言葉は・・・。

「・・・シ・・・シェリー・・・。何を食わせたんだよ・・・」

「ひどーいっ!!ゼリーよ!さくらんぼの!」

見ればわかるじゃない。
こんなこと言うなんてしっつれーしちゃうわ!

「ゼリー?これが・・・?」

「なによ〜。おいしいの?おいしくないの?どっち?!」

いつまでもはっきりしないからだんだんイライラしてきた。

「・・・マズイ(´д`;)」

・・・(怒)

「なっ、なによぅ!マズイだなんて失っ礼しちゃうわねっ!!ちゃあんと本を見ながら作ったのよ!マズイはずが・・・」

「こんなにマズイ味のゼリーなんか珍しすぎてめったに食えねぇな」

呆れ顔でやれやれとため息をつく。

むかっ!!
ストレートにマズイと言われたあたしは、マリウスが言ったことが本当なのか確かめるために
マズイ(らしい)ゼリーを一口食べてみた。

「・・・(´д`;)」

絶対に美味しく出来たって自信があったのに・・。
想像を絶する味にあたしはそのまま固まってしまった。

「な?マズイだろ?いくらなんでも”おいしい”って味じゃないよなぁ〜」

今のあたしにはマリウスの意地悪な言葉も聞こえなかった。

「?シェリー?お〜い」

マリウスがあたしの顔の前で手をひらひらと上下に振る。

「ダメだ・・・完全に違う世界にいっちまった」
(・・・ちょっと言いすぎた・・・かな?(汗))

「さ・・・てと。マザーグリーンに画材を買いに行ってくるかな」

そう言うとそそくさと家を出て行ってしまった。

一人取り残されたあたしは、まだ固まっていた。

・・・どうして?
マリウスに美味しいって言ってもらいたくて一生懸命頑張って作ったのに・・・。

我に返ったあたしは、テーブルに頬杖をついて考えてみる。

「ん〜・・・、何がいけなかったのかなぁ?ちゃんと材料揃えたし、分量だって・・・」

材料・・・?

材料という言葉でふとあるものを思い出した。

・・・もしかして。
そう、あたしはゼリーにあるものを入れた。

”ゼラチン”っていうのが無くて、代わりに寒天というものを。
そして、ゼラチンと同じ分量で入れたんだわ・・・。

寒天はゼラチンと違って、少しの量でもすごい弾力がある。
しかも入れすぎるとゴムのようにかたい。

さらにマリウスは甘すぎるよりはいいかな?と思って塩をほんの少し入れてみた。
ううん、もしかしたら砂糖と塩を間違えたのかも。

完成したそれは見た目は普通のゼリーだけど、その味は・・・

失敗しちゃった★

・・・。

なんていってる場合じゃないわ!

どうしよう、マリウスに味オンチだなんて思われちゃったら・・・

ううん、ここで凹んでいられないわ!
こうなったらリベンジよ!
女は行動力なんだからっ!!

マリウスが帰ってくる前に作り直さなくちゃ。

2

夕方になるとマリウスが帰ってきた。

「シェリー・・・」

「あ!おかえり!あのね、また作ってみたの。食べてみて♪」

「え゛っ・・・」

うぅ・・・見るからに嫌そう・・・
でも絶対に食べてもらうんだから!

「ねぇ、マリウス・・・一生のお願い!」

今にも泣きそうな潤んだ瞳でマリウスを見つめる。

「う・・・わ、わかったよ」

やっぱり、あたしの一生のお願いは効果あるわ。
誰も断ったことがないもの♪

でも、マリウスはため息ついた・・・(怒)

「はい、作り直したゼリーよ」

マリウスの前にゼリーを差し出す。
スプーンを持った手が微妙に震えている。

(こ・・・今度は大丈夫だよな・・・)

食べるのは気がひけるけど、シェリーが期待するように見てるし・・・
恐る恐るゼリーを一口食べてみる。

「・・・・・」

「どう?・・・やっぱりマズイ・・・かな・・・」

ドキドキしながらそっと聞いてみた。

「おいしい・・・」

「えっ?今なんて・・・?」

「美味しいよ。甘さもちょうどいいし」

さっきのマリウスとは思えないくらい優しい口調で美味しいって言ってくれた。

「よかったぁ!またマズイって言ったらハリセンでシメちゃおうかな〜って思ったの♪」

「・・・(汗)」

「・・・さっきはごめんな。シェリーがせっかく作ってくれたのにマズイだなんて言って」

・・・ウソ?!
マリウスが素直に謝るなんて・・・
何か悪いものでも食べたのかしら?
さっきのゼリーのせいじゃない・・・はず。

マリウスはゴソゴソと何かを取り出すと
「これ・・・おまえにやるよ」

ってちょっと大きめの箱を差し出した。

「?」

きれいにラッピングされた箱を開けると。
中にはピンクのリボンをつけた真っ白いふわふわのネコのぬいぐるみが入っていた。
リボンの先には銀の羽のモチーフがついている。

「うわぁ〜可愛い!!」

思わずふわふわのネコさんをぎゅうっと抱きしめた。

「その・・・。ヒドイこと言っちゃったしな。それで許して・・・くれるか?」

照れたように頭をかきながら小さな声で言う。

「マリウス・・・ありがとう!!」

嬉しくて思いっきりマリウスに抱きついた。

「わっ///」

マリウスは顔を赤くして慌てる。

もしかして・・・。
さっき逃げるように家を出ていったのはこのぬいぐるみを買いに行くためだったのかしら?
そう思ったらマリウスの優しさが嬉しくてたまらない。

ありがとう、マリウス。
いつも意地悪なことばっかり言うマリウスがこんなに優しいなんて、すごくびっくりしたけど
あたし、本当に嬉しい!

これから、たくさんお料理やお菓子作りの練習をして毎日美味しいものを食べさせてあげるね♪
大好きなマリウスのために♪

[前へ] [小説一覧] [次へ]