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ジェリービーンズ 小説


受け継がれる想い

「コルネット、行くわよ」

いつものように、朝食を済ませ
教会のお勤めの前にコルネットと一緒に出かける。

あの日から一日も欠かしたことのないあの場所へ・・・。

「ま、まって〜おかあさん!」

先に外へ出ようと、ドアを開けたとき、
2階から慌しく娘のコルネットが降りて来た。

「置いていかないから大丈夫よ。
危ないから階段はゆっくり降りてね」

「はぁい♪」

薔薇色の頬、ふわふわの髪、愛らしい笑顔。
コルネットはあたしの大切なたったひとりの娘。
あたしの宝物。
コルネットはあたしが前にプレゼントした
人形のクルルを抱っこしている。

「さぁ、出かけましょう」
そう言って、ドアを開け外に出ると
コルネットがあたしの手を掴んできた。

「ふふっ、コルネットは甘えんぼさんねぇ」
「だって・・・おかあさんが大好きだから・・・
てをつなぎたいんだもん・・・」

・・・なんて可愛いのかしら!
可愛い娘の可愛い言葉に
あたしは愛おしさで胸がいっぱいになる。

コルネットとふたり、並んで手を繋いで仲良く歩いていく。
教会へ向かって。

*

途中、近所のおばさんに挨拶をしながら
雑貨屋さんの左を曲がる。
真っすぐ先にはあたしがシスターをしている
教会が建っている。

「おかあさん」

コルネットがあたしを見上げる。

「なぁに?」
手を繋いだまま、コルネットを見る。

「あのね、お花畑でお花を摘みたいの」

そっか。

「いいわよ、じゃあ教会のお花畑に寄っていきましょ」
「うん♪」

何故コルネットが突然こんなことを言い出したのか。
あたしにはすぐにわかった。

*

教会の隣にある、小さな花畑には
色とりどりのきれいな花が沢山咲いている。

「うーんっと・・・」
コルネットはきょろきょろと花畑を見回しながら
良さそうなお花を選んで摘んでいく。

あたしもピンクや黄色などバランスのいい
色の花を摘む。

「おかあさん、いっぱい摘めたよ〜」

両手で摘んだ花を抱えながら
あたしのところへ戻ってきた。

「コルネットが摘んだお花、とってもきれいね」

「へへ」

あたしが褒めると、照れくさそうに微笑む。

咲いている花を踏まないように気をつけながら少し離れた場所にふたりで座る。

「うまくできるかなぁ?」

「大丈夫!コルネットは上手になったもの」

あたしとコルネットは摘んだばかりの花で冠を作った。

「コルネット、上手にできたじゃない♪」

「ホント?」

「ええ、本当よ♪」

「それじゃ、そろそろ行きましょ。こんなにきれいなんだもの、きっと喜んでくれるわ」

「うん♪」

*

花畑の少し奥にある小さな墓地。

門にはきれいに手入れされた緑のアーチがある。
その緑のアーチをくぐり、一番左奥にあるお墓を目指して。

「おとーさん、おはよう」

「今日はね、コルネットがマリウスにお花の冠を作ってくれたのよ。
あ、あたしも作ったけどね」

言いながら、十字の形の墓石に花冠を飾る。

「うーん・・・」

足元ではコルネットが花冠を飾ろうと、小さな体で精一杯背伸びをしていた。

墓石に届くように、コルネットの小さな体を抱きあげると
ようやく花冠を飾ることができた。

「おとうさん、よろこんでるかな?」

小さな瞳を輝かせながらあたしを見上げる。

「もちろんよ。可愛い娘からのプレゼントだもの♪」

「じゃあ、おかあさんからのもよろこんでるね!だいすきなおかあさんからの
プレゼントだもん」

「そうね♪」

*

”マリウス・エスポワール”
墓石に彫られた愛しい人の名前。
見つめながら、心の中でそっと語りかける。

――マリウス。
あの日から、もう何年になるかしら?
あの日。
森で倒れていたあたしをあなたが見つけて。
奇跡のようなあなたとの出会い。
だって、森で倒れていたら普通見つけてもらえないもの。
偶然じゃなく、運命の出会いだったのね、きっと。

あなたとは本当に色々あったわね。
出会ってから結婚するまで、本当にいろんなことがあった。
つまらないことで喧嘩したりして。
喧嘩したときはマリウスなんか大嫌いなんて意地はってたりもしてたけど
今では大切な思い出ね。

あなたが残してくれた最愛の娘のコルネット。
コルネットが産まれたとき、
あなたに抱かせてあげたかった。
名前を呼んで欲しかった。

晴れた日にはお弁当を持って
家族3人で色んなとこへ行きたかった。

平凡な願いさえ、あたしたちには叶わなかった・・・。
ただ、ずっと一緒にいたかったのに。

一時期、あたしはあなたを失った悲しみで
毎日泣いていたわね。
お義父さんには産まれてくる子のためにも
いつまでも泣いてちゃいけないって言われてたけど・・・

わかっていても悲しくて。
泣いちゃいけないって思っても涙が止まらなくて・・・。
そんなとき、あなたが笑顔と元気を取り戻させてくれたのよね。

あのときのあなたの姿、あなたがくれた言葉。
あれは幻なんかじゃない。
あのとき、あなたは確かにあたしに逢いに来てくれた。

あなたを失い、ひとりぼっちになってしまったと
泣いていたあたしにこう言ってくれた。

『しっかりしろよ!シェリー。笑顔はどうした?』

あながた好きだと言ってくれたあたしの笑顔。
ずっと忘れていた笑顔・・・。

マリウス、あなたのあの言葉で
あたしは笑顔を取り戻すことができたのよ。

『そうそう!シェリーには笑顔がいちばん似合うんだから。だから・・・。もう泣くなよ!』

今でもはっきり覚えているわ。
あなたがあたしに言ってくれた言葉。

あたしはひとりぼっちなんかじゃない。
そばにはコルネットがいて。
あたしの心の中にマリウスはいるもの。

瞳を閉じて、そっと語りかければあなたに逢える。
ね、マリウス――

*

「あのね、おとうさん。
このまえね、おかあさんとふしぎのもりにいったの」

コルネットはマリウスに楽しそうにお話をしている。

「おべんとうもってねー、うたをうたいながらあるいたんだよ」

「でね、おかあさんがおしえてくれたの。
ふしぎのもりはおとうさんとおかあさんがであったばしょだって。
おかあさんはこのもりがだいすきなんだって!
こるねっともふしぎのもりはだいすきだよ♪
おとうさんとおかあさんがであったばしょだから
こるねっともだいすき!」

「コルネット・・・」

とても嬉しそうに話すコルネットを
そっと抱き寄せた。

「おかーさん?なんでないてるのー??」

「ありがとう、コルネット。ありがとう・・・」

あたしとマリウスが出会った場所をコルネットも好きだと言ってくれた。
本当に嬉しいわ。

ねぇ、マリウス。
コルネットはあたしたちの願い通りに育ってくれたわ。
まだコルネットがあたしのお腹にいる頃に
ふたりで話したわよね。
男の子でも女の子でも元気で明るい、素直な子になって欲しいって。

コルネットはとってもいい子よ。
元気で明るくて、素直で。
甘えんぼなところもあるけれど、そこがまた可愛いのよね♪

「マリウス」
「おとうさん」

立ち上がり、コルネットと手を繋いで
ふたり一緒に声をそろえて語りかける。

「また明日も会いにくるからね」

『ああ、待ってるよ』

どこからか、マリウスの声が聞こえたような気がした―ー。

受け継がれる想い〜シェリー編
終わり

04.2.8
桜妃リアス

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