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ジェリービーンズ 小説


〜愛しき子に幸せを〜

チュンチュンと小鳥が楽しげに囀る声で目が覚めた。

ベッドに入ったまま、窓の方を見ると
カーテンの隙間から朝の光が差し込み、そよ風に優しく揺れている。

もぞもぞとベッドから起き上がり、ピンクの小さな羽根をパタパタと羽ばたかせ、窓辺まで飛んでいくとシャッ!っと勢いよくカーテンを開けついでに少し開いていた窓も全部開けた。

春の青空には白い雲が浮かんでいる。

「ん〜!いい天気!こんな日はいつまでも寝てられないわね!」

朝の新鮮な空気をおなかいっぱいに吸いながら大きく伸びをひとつ。

「さて、朝ごはんの用意をするか!」

ドアのところで振り返り、コルネットを見るとまだまだ夢の中のようだ。

「ふふっ、気持ちよさそうに寝ちゃって。これじゃまだ起きそうにないわね」

一階に降りると、ムスタキの姿が見えない。

「・・・あれ?ジジィどこいったんだろ?」

すると、外からまきを割る音が聞こえてきた。

「おはよー!いつも早起きだね」

玄関のドアから顔だけ出してムスタキに声をかけると、その声に気がついたムスタキがこちらを見ながらこう答えた。

「おはよう、クルル。おまえも早起きじゃないか」

「へ?そりゃそうでしょ!この小さな体で家事全般をこなすんだもの。
普通より時間かかるし。早起きしてやらないと全部終わらないでしょ。
じゃ、朝ごはんの準備ができたら呼ぶから」

「夢まどろむ春の夜明けに〜♪」

歌を口ずさみながら材料の下ごしらえ。

「今日の朝食は〜ミートパイとコーンスープ♪」

スープの材料となるコーンをよいしょ、と抱きかかえながらふらふらと
台所へ戻ってきた。

「あ〜あ、こんなとき元の姿だったらどんなに楽か・・・おっと!あたしとしたことがつい本音を・・・」

コルネットに聞かれたら大変だわ。
・・・もっともまだ夢の中みたいだけど。

朝食の準備が終わり、外にいるムスタキに声をかける。

「朝ごはんができたよ〜」

それから2階へ飛んでいく。

さすがにもう起きただろうと思っていたのに、コルネットはまだ寝息をたてていた。

ベッドの中ですうすうと寝ているコルネットのところへ飛んでいくとつんつんと鼻をつつき、起こそうとするがなかなか起きない。

「コルネット、起きて!朝ごはんできたよ」

「ん・・・」

起きたかな?と思ったら寝返りを打っただけらしい。

「・・・」

それならば。

「コルネットってば!起きなさーいっ!!」

べりっと勢いよく布団を持ち上げる。

「?!」

いきなり布団を取られたコルネットは一瞬何が起きたのかわからないようだったが、すぐに現状を把握したらしく慌ててこちらを見る。

「くるる〜!びっくりしたじゃない!!」

「あんたがさっさと起きないからでしょ?」

「うっ・・・」

あたしの言ったことに反論できないみたいね。
だって本当のことだし。

「早くしないと朝ごはん冷めちゃうよ!」

「ま、まってよ〜」

慌てて部屋を出て行こうとするコルネット。

「ちょーっとまったぁ!着替えてからでしょ?それに寝癖すごいよ〜」

「はい、着替え」

ちょっと前まではあたしが着替えを手伝ってたんだけど、今はコルネットもひとりで着替えができるようになった。

赤いワンピースを着たコルネット。
このワンピースはあたしが・・・シェリーが生きてる頃に作った思い出のワンピース。

「コルネット、こっち」

鏡の前へコルネットを座らせ、柔らかな髪にクシをとおす。

「いたっ!」

髪がクシに引っかかったらしくコルネットが騒ぎ出す。

「あ〜、ごめんごめん。あんまり寝癖がひどいから引っかかりやすいのよ」

「そっ、そんなにねぐせひどくないもん〜」

「はいはい、さ終わったよ」

軽く受け流し1階へ降りるように促す。

「くるるってば、いっつもこるねっとのはなしちゃんときいてくれないんだから〜!」

「ね、コルネット。今日は天気もいいしエトワールと遊んできたら?」

コーンスープを飲みながらコルネットに聞いてみると、
おいしそうにミートパイを頬張っている真っ最中だった。

「あーあ、口の周りにいっぱいついてるよぉ」

タオルで口を拭いてあげていると、コルネットは嬉しそうに瞳を輝かせながらこう言った。

「あそびにいってもいいの?」

「いいよー。でも不思議の森だけは行っちゃダメよ」

「なんで〜?」

「森にはねー、コルネットの大っ嫌いなカヘルがいっぱいいるからねぇ」

「!!」

あたしの言葉を聞いたコルネットは目に涙をためて今にも泣き出しそう。

可愛そうだけど、こうでもしなきゃ好奇心旺盛なコルネットは
森に行っちゃうだろうからね。

不思議の森には最近、巨大メタルカヘルが出没するらしく
危険なのには間違いない。

「うっ・・・う・・・」

やばい、本当に泣きそう。

「だ、だから森には行っちゃダメよ?マザーグリーンまではあたしも行ってあげるから。ね?」

「うん・・・」

コルネットをマザーグリーンのエトワールの家まで送り届け、オレンジ村へ戻ってきた。

「さて、洗濯物を干さなきゃ。
んで部屋の掃除して・・・」

やることはたくさん。
ただでさえ小さな体だから、昔より家事をこなすのが大変!

家事の合間に、教会へ。

シェリーの頃と同じように、今でも教会でのお祈りは欠かさない。

『古の神々よ。今日も一日平和にすごせるよう、お守りください』

そして。

『コルネットがいつも幸せでいられますように』


夕方になると、
ローゼンクィーン家のメイドがコルネットを家まで送ってくれた。

夜。

夕食を終え、コルネットを寝かせると
夕食の後片付け。

全ての家事を終え、2階の部屋に行く。

コルネットを起こさないようにそっとドアを開け、部屋の中に入り、
月明かりが差し込む窓辺へ飛んでいく。

夜空には無数の星たちが輝いてた。

「きっと明日もいいお天気だね」

誰に言うでもなくひとり呟く。

コルネットを見ると、遊び疲れたのか熟睡している。

「・・・・・」

黙ったまま、そっと瞳を閉じるとクルルの体が淡い光に包まれる。

光の塊が大きくなり、やがて4枚の翼を広げたシェリーの姿へと変化した。

月明かりを浴びながら、はらはらと白い羽が舞い落ちる。

「・・・この姿に戻れるのも今だけね」

「ん・・・おかぁさん・・・」

コルネットが呟いた。

「コルネット?」

一瞬、コルネットが起きたのかと驚いたけど、ただの寝言らしい。

「寝言でも、”おかあさん”って言ってくれるのは嬉しいわ」

コルネットの髪を優しく撫で、柔らかな頬にキスをする。

こうしてコルネットのそばにいられるのもずっと続くわけじゃない。

「いつか・・・生まれ変わるときが来る」

生まれ変わるときがきても・・・

「忘れないで、コルネット。人を愛する気持ちを。そしてぬくもりを・・・」

「あたしはコルネットのそばにいるわ。」

『シェリー』じゃなく、『人形クルル』として。

コルネットが幸せになるその日まで。

でも、その日がお別れの日。

別れるのは辛いけれど、元気な笑顔で見送ってね。

”笑顔は幸せをくれるおまじない”

いつだったか、まだあたしがシェリーだった頃
コルネットに教えたこの言葉。

あたしはあなたの笑顔が大好きだから・・・・
だから、笑顔で見送ってほしい

愛しき子の幸せのために

あなたの幸せのために――

fin.

03.7.2 riasu.ouhi

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