幻想世界Vol.9 ドラゴンとは何か?−3


西暦元年

新約聖書によって黙示録のドラゴンが神々の敵として登場し、以後ドラゴンは邪悪な魔物とされるようになった。これ以降、キリスト教の普及に伴って、悪のドラゴンは世界各国に広まる事となる。

この時点でドラゴンはサタンを指し示す言葉だった。それはキリスト教を伝えたユダヤ民族がかつてバール神を信仰しており、その敵としてドラゴンが多かったからだといわれている。そして多くの悪魔もドラゴンと呼ばれた。現在の日本で言う「悪魔」と同じ意味でドラゴンという名が使われていたと言ってよい。


西暦700年ごろ

いよいよ英雄譚に定型的な西洋ドラゴンが登場してくる。ベーオウルフに登場する炎を吐く竜は、まさに西洋ドラゴンそのものである。この時初めて西洋ドラゴンの姿が明確になったと思われる。特に炎を吐くというドラゴン最大の特徴はここで始めて登場する事になる。

また900年になるとジークフリートと戦ったファーブニルが登場。小人のファーブニルが変身したドラゴンはベーオウルフに登場する炎を吐く竜がモチーフだろう。

また日本ではヤマタノオロチ(八岐大蛇)が姿を見せる。スサノオノミコトに退治されるこの竜は、その名の通り典型的な多頭蛇の姿をしている。ちなみにこの姿は幾重にも分かれた川を象徴しているとされている。元々蛇なのだが、近年のゲームでは西洋ドラゴンや竜神の頭部を持つものも多い。これは怪獣映画に登場したキングギドラの影響が強いのではないかと思われる。

北欧では巨大な蛇であるヨルムンガンド(ミドガルズオルム)の名が登場してくる。

この頃になると地域によってその姿が大きく異なってくる。


西暦1500年ごろ

ヨーロッパでヴィーヴルという翼を持った蛇が登場する。なぜかメスしか存在しない。人を襲う事があったが彼女の住む土地は植物や動物が栄えたため、大地の恵みを司るドラゴンとして崇拝された。後にヴィーヴルは宝を守る女の精霊として姿を変えるが、イギリスに渡ったヴィーヴルは飛竜と称されるワイバーンへと姿を変えた。ワイバーンは紋章用に考え出された架空の生き物で、ドラゴンの紋章が王族のものだったために、それに変わる紋章として使用された。

ヨーロッパでは他にもリンドブルム(ドイツ語で飛竜の意)と呼ばれるドラゴンが登場。リンドブルムはそれまでのドラゴンとは違い、稲妻や流星といった空の現象の正体だとされている。このドラゴンは前足が無く、そのかわりに翼を持ち空を自在に飛びる事ができた。これはイギリスにおけるワイバーンと同じ特徴であるが、イギリスとは違い、ドラゴンとの区別はされていない。ヨーロッパでは翼ある竜をリンドブルム、翼の無い4本足の竜をドレイク(リンドドレイク)として、両者を合わせてドラゴンと呼んだ。

ここにきて空を飛ぶドラゴンが違う地域で同時に生まれている点は興味深い。それとドラゴンが王族の紋章として使われている点に注目して欲しい。新約聖書の邪悪なイメージから、強さや守護のイメージが強くなっている事が伺える。


西暦1700年ごろ

日本で竜神信仰が起こる。中国より伝わった龍のイメージが日本の風土と結びつき、独自の竜神を生み出した。竜神は龍と違い、天上ではなく海や湖、川に住んでいる。また雨や水を司る大蛇であり、神でもある。

ただし龍は龍として天に存在していたらしく、昔話などにも天を駆ける龍の姿が描かれている。


>この話の続きを見る