幻想世界Vol.9 ドラゴンとは何か?−2


紀元前1000年ごろ

正確な年数は前後500年範囲で不明なのであるが、このころゾロアスター教が登場し、悪神アーリマン(アンラマンユ)の腹心としてアジ・ダハーカというドラゴンが登場する。3頭の獰猛なドラゴンとして描かれ、最強の邪悪な者とも呼ばれた。ただしアジ・ダハーカは紀元前2000頃にはその姿が描かれていたとの説もあり、他文明の神がゾロアスター教に取り込まれた可能性もある。

ギリシャではウロボロスという概念が生まれた。しばしドラゴンにも喩えられるが、ウロボロスは生き物の名ではなく概念を指し示す言葉である。これは蛇の奇妙な点(足が無いのに動ける、暗闇でも獲物を捕らえる事ができる、自分よりも大きな獲物と丸呑みにする、脱皮する)から生み出されたもので、特に脱皮は古い体を捨てて新しい体を手に入れる、つまり不死身だと考えらた。そこからウロボロスという概念が生まれ、不死身、生と死、始まりと終わり、無限、時間、無、そして錬金術における完全、全て、賢者の石といった様々なものを象徴するようになった。ウロボロスは自らの尾をくわえた蛇の姿で描かれる。


紀元前700年ごろ

ギリシャ神話が確立するとエキドナは上半身女性、下半身大蛇の怪物に姿を変え、台風神テュポーンを夫として様々な怪物を産み出した。オルトロス、ケルベロス、スキュラ、キマイラなど有名な怪物はほとんどエキドナの子である。中には多頭竜のヒドラ(ヒュドラー)や黄金の林檎の木を守る守護竜ラードーン、金毛羊の皮を守護する竜などドラゴンも多い。また夫のテュポーンがゼウスによってエトナ火山に封じられた後は息子のオルトロスや英雄ヘラクレスを夫とし、スフィンクスやスキタイ民族の祖などを産んだ。

この頃になるとドラゴンは怪物となり、神性は不死性となって受け継がれた。ほとんどが蛇の姿、または半身蛇である点は変わらなかったが、宝を守護する役目を与えられる事が多くなっていった。


紀元前300年ごろ

インドのバラモン教の聖典であるリグ・ヴェーダにヴリトラが登場する。インド神話の最高神インドラを倒すために生み出された魔物で、巨人ともドラゴンとも言われた。

また地底に住む毒蛇の神々としてナーガの名が登場する。ナーガは特定の固体を指す言葉ではなく、いわば種族名(階級名)。インド神話における地下世界7層の最下層パーターラに住む、生と死を司る神々である。ナーガの王はナーガラージャと呼ばれ、特に強い力を持っていた。有名なナーガとしてはシェーシャ(最も偉大なナーガ)、カーリヤ(ナーガの王にして母)、アナンタ(世界の始まりと終わりに登場するナーガ王)、ヴァースキ(大地を支えるナーガ)などがいる。ちなみにナーガは元々インドで使われていたサンスクリット語でコブラ(毒蛇)を表す言葉である。

ナーガはこの時点ではまだドラゴンとは呼ばれていない点に注意。


紀元前100年ごろ

仏教が中国に伝わるとナーガと龍が混同され、仏教独自の竜王(ナーガ)が生まれた。これによりナーガはドラゴンとして扱われるようになり、龍が持つ水を操る力を得る事になる。竜王の数は3万8千とも言われた。そして特に力の強い王が8大竜王と呼ばれ、阿難陀(アナンタ)や和脩吉(ヴァースキ)など、有力なナーガラージャを漢訳した物である。

同じように仏教の伝来によって姿を変えたドラゴンにマカラがいる。インドのマカラは海や大河に住むドラゴンで、サメの身体に長い尾を持つなど、ディスガイアのサメドラゴンを髣髴させる姿で描かれる。水の神の乗る神獣であり水を自在に操る力を持つ。インドに仏教が起こると航海の安全を守る守護獣に数えられた。

対して中国のマカラは摩迦羅となり海の大怪獣となる。体長200kmという巨大な怪物で竜と魚の入り混じった姿とされた(丁度魚竜のイメージが近いと思われる)。あらゆる生き物を飲み込み、船舶を襲い、天まで届く潮を噴いたと言われる。


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