もう一つの結末

第5章「孤高の幸福」

一体どれほどの間、戦っていただろうか…

あまりにも激しい戦いに、魔王の名を冠する者たちですら、ただ見ている事しか出来なかった。

「ふ…さすがね…」
「オオォォォォ!!!」

闇の王子が猛る…
いつ終るとも知れない戦い…それに魅入る者達…
刻は永遠に流れるかに感じられた…

しかし闇の王子の顔に明らかな焦りが生じていた…
(何だコイツは…なぜ俺の攻撃が通用しない…)
それは彼の心に巣食う闇…堕天使カラミティーの焦りでもあった。
(なぜだ!なぜだ!なぜだ!!)
執拗に攻撃を繰り返す闇の王子。
しかしその攻撃は全て受け流され、反撃を食らう。

(やはり思い出さないのね…)
(…何だ…?…一体私は何を待っているのだ…?)
少女はなぜ自分がこんな事をしているのかわからなかった。
その一瞬、少女に隙ができたのを、闇の王子は見逃さなかった。

「オオォォォ!!」

咆哮を上げ襲い掛かるその拳は、しかし彼の予想に反して空を切っていた。

「…ば…ばか…な……」

驚愕する彼の胸を少女の腕が貫いていた。
時が止まる…

(力が…抜けていく…?)
(そんな…な…ぜだ…?)
(なぜ…俺…俺は…ただ…)
闇の王子の体から影が飛び出し…消える…
その目には、もはや憎しみの色は無かった。
焦点定まらぬまま、彼が目にしたのは見覚えのある顔だった。

「アン…ジェ…リ…カ……?」

その言葉に、少女は激しい憤りを感じずにはいられなかった。
(そう…やはりあなたは彼女の事が…)
そう思えば思うほど憎しみが込み上げる。
(ならば…ならば…)
もはや彼女にとって彼を手に入れる事こそが全てだった。
その手段を選ぶ余裕など、もはや無い。

「お前を…吸収する、そして永遠に私の血肉となれ…」

その言葉を合図にするように、クロワの体が消滅していく。

「ぐあぁぁぁ!!!
ア…アン…ジェリ……プリ…を…守…
おおぉぉぉぉぉ!!!!」

その瞬間、激しい閃光が走り、闇の王子は消滅した。
後には彼の着ていたコートだけが残されていた。

少女はそれを拾い上げると、おもむろにそれを羽織り、きびすを返して言った。

「バール、このまま魔界を制覇する。すぐに準備を整えろ」
「は、御意に…」

少女はただ佇んでいた…
戦いの果てに、初めて得た安らぎに身を預けて…

「クロワ…これであなたは永遠に…」

そう呟いて胸を押さえた彼女が、まるで聖女かと見まごうような微笑みを浮かべたのは、気のせいだったのだろうか…?

空に蠢く紋様に吸い込まれるように飛び立った少女の顔は、もはや冷徹で残忍な魔王としてのそれであった。

その瞳から零れ落ちた、ただ一粒の雫が「闇」の中へと消えていった…

後に魔界は一つとなる。
人間の衣服を身に纏う、一人の魔王の手によって…

〜to be continue〜