一体どれほどの間、戦っていただろうか…
あまりにも激しい戦いに、魔王の名を冠する者たちですら、ただ見ている事しか出来なかった。
「ふ…さすがね…」
「オオォォォォ!!!」
闇の王子が猛る…
いつ終るとも知れない戦い…それに魅入る者達…
刻は永遠に流れるかに感じられた…
しかし闇の王子の顔に明らかな焦りが生じていた…
(何だコイツは…なぜ俺の攻撃が通用しない…)
それは彼の心に巣食う闇…堕天使カラミティーの焦りでもあった。
(なぜだ!なぜだ!なぜだ!!)
執拗に攻撃を繰り返す闇の王子。
しかしその攻撃は全て受け流され、反撃を食らう。
(やはり思い出さないのね…)
(…何だ…?…一体私は何を待っているのだ…?)
少女はなぜ自分がこんな事をしているのかわからなかった。
その一瞬、少女に隙ができたのを、闇の王子は見逃さなかった。
「オオォォォ!!」
咆哮を上げ襲い掛かるその拳は、しかし彼の予想に反して空を切っていた。
「…ば…ばか…な……」
驚愕する彼の胸を少女の腕が貫いていた。
時が止まる…
(力が…抜けていく…?)
(そんな…な…ぜだ…?)
(なぜ…俺…俺は…ただ…)
闇の王子の体から影が飛び出し…消える…
その目には、もはや憎しみの色は無かった。
焦点定まらぬまま、彼が目にしたのは見覚えのある顔だった。
「アン…ジェ…リ…カ……?」
その言葉に、少女は激しい憤りを感じずにはいられなかった。
(そう…やはりあなたは彼女の事が…)
そう思えば思うほど憎しみが込み上げる。
(ならば…ならば…)
もはや彼女にとって彼を手に入れる事こそが全てだった。
その手段を選ぶ余裕など、もはや無い。
「お前を…吸収する、そして永遠に私の血肉となれ…」
その言葉を合図にするように、クロワの体が消滅していく。
「ぐあぁぁぁ!!!
ア…アン…ジェリ……プリ…を…守…
おおぉぉぉぉぉ!!!!」
その瞬間、激しい閃光が走り、闇の王子は消滅した。
後には彼の着ていたコートだけが残されていた。
少女はそれを拾い上げると、おもむろにそれを羽織り、きびすを返して言った。
「バール、このまま魔界を制覇する。すぐに準備を整えろ」
「は、御意に…」
少女はただ佇んでいた…
戦いの果てに、初めて得た安らぎに身を預けて…
「クロワ…これであなたは永遠に…」
そう呟いて胸を押さえた彼女が、まるで聖女かと見まごうような微笑みを浮かべたのは、気のせいだったのだろうか…?
空に蠢く紋様に吸い込まれるように飛び立った少女の顔は、もはや冷徹で残忍な魔王としてのそれであった。
その瞳から零れ落ちた、ただ一粒の雫が「闇」の中へと消えていった…
後に魔界は一つとなる。
人間の衣服を身に纏う、一人の魔王の手によって…