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ジェリービーンズ 小説


3月21日、――約束の日――

ここはマール王国王都・マザーグリーン

本日正午マール城教会にて
20代目王位継承者のフェルディナンド・マールと コルネット・エスポワールの結婚式が行われた。

「コルネット!すっご〜くきれいだよ♪」

純白のウェディングドレスに身を包んだコルネットを前に、人形クルルが瞳をきらきらと輝かせていた。

「ありがと、クルル///」

クルルの言葉にコルネットは頬を赤く染める。

「あの泣き虫で甘えん坊のコルネットとは別人みたい」

少しからかうようなクルルの口調にコルネットは頬を膨らませた。

「なによ〜!せっかく人が幸せ気分に浸ってるのに!」

「あはは!冗談だってば!」

それを見たコルネットは冷ややかな視線をクルルに向ける。

「あんたの場合、冗談に聞こえないんだけど(汗)」

*

結婚式が終わった後、謁見の間でお祝いのパーティーが開かれる。

一通り挨拶を交わしたコルネットは、賑やかな会場をそっと抜け出し
ひとり教会へと向かった。

結婚式が終わった礼拝堂は先ほどと違い、ガランとしていてとても静かだ。

祭壇にある女神像の前まで来ると、コルネットは床に膝をつき、祈りの姿勢をとる。

「お母さん・・・。聞こえる?
大好きな人と結ばれて・・・わたし、今とっても幸せだよ」

「お父さん・・・、わたしのウェディングドレス姿見えてますか・・・?」

本当は・・・
お父さんとお母さん、2人にちゃんと見てほしかった。
わたしが幸せになった事を祝福してほしかった。

涙で視界が揺らいでぽろぽろと暖かい涙が頬を伝う。

「コルネット?」

ふいに名前を呼ばれ、振り返るとそこにはフェルディナンドの姿が。

「急に姿が見えなくなったと思ったらここにいたんだね。
・・・どうして泣いているの?」

「あ・・・、ええっと・・・その・・・
幸せすぎて涙が出ちゃっただけ///」

大好きな人に涙を見られて慌てて誤魔化した。
けれど、フェルディナンドは心配そうにコルネットの顔を覗き込む。

「本当に?」

「うん、本当だよ。
あっ、お客さまを放っていたんじゃいけないよね、戻りましょフェルさま!」

コルネットが明るくそう言うと、2人は手をつないでパーティーホールへと戻った。






*

会場へ戻ると、コルネットとフェルディナンドの姿を
見つけたエトワールが話しかけてきた。

「コルネットの姿が見えなくなったと思ったら・・・
お2人揃ってどちらまで行ってましたの?
主役がゲストを放っておくなんていけませんわね〜」

口調はいつものことだが、表情は明らかにからかっている。

「ち・・・ちょっと外の空気を吸っていただけよ!」

頬を紅く染めながらも反論するコルネット。

「まったく、コルネットはわかりやすいですわね」

「・・・・///」

「あれ?」

コルネットはあたりを見回した。
クルルの姿が見えない。
クルルのことだから、ご馳走が並んでいるテーブルにでも行ってると思ったが
会場のどこにもクルルの姿が見えなかった。

「クルル・・・?どこに行ったのかな・・・」

「エトワール、クルルがどこ行ったか知ってる?」

「クルルさんでしたら、さきほどテラスの方へ出て行くのを見ましたわ」

「テラスね、ありがとう」

*
テラスへ出ると、クルルがテラスの手すりに座って満天の星空を見上げていた。

「クルル、探したのよ」

「コルネット・・・」

コルネットも星空を見上げると、
きらきらと無数の星たちが輝いている。

「ねぇ、コルネット。」

「ん?なぁに?」

「今・・・幸せ?」

「・・・うん、とっても幸せよ」

(なんでそんな事聞くのかな・・・?
言わなくたってクルルもわかるのに・・・)

「そう・・・よかった・・・。
本当によかったね」

「クルル?どうしたの?いつものクルルと違うけど・・・。
ご馳走食べすぎたせいか・・・も・・・」

わたしの言葉が言い終わる前にクルルは静かにこう言った。

「・・・お別れのときが・・・きたの」

「え・・・?今、なんて・・・?」

「コルネット、今までありがとう。
さようなら・・・」

クルルが瞳を閉じると、小さな身体が淡い光に包まれる。
クルルの身体がふわり、と落ちる。
コルネットは慌ててクルルを抱きとめた。

ぱあっと目の前が明るくなると、そこには4枚の真っ白い翼を背に広げた
シェリーの姿があった。

「お、おかあさん・・・?!」

「コルネット?!
・・・そう、知っていたのね・・・・。
今までありがとう、ずっとずっと幸せでいてね・・・
さようなら・・・」

そう言うと、シェリーは翼を広げ、ふわりと夜空へ飛び立った。

「い・・・いや・・・。いかないで、おかあさんっ!!」

コルネットはテラスから身を乗り出し、必死に叫ぶ。

「コルネット・・・。
あたしが人形クルルの姿を借りて地上にいられるのは
コルネットが幸せになるまで、っていう約束だったのよ」

小さな少女の様に泣きじゃくるコルネットを諭す様に
シェリーは優しく言う。

「わたし・・・っ・・・
おかあさんと一緒にいることが幸せなのよっ!!
だから・・・いかないで・・・っ」

「・・・でもね、出会いがあれば別れがある・・・
みんなそれを乗り越えて大人になっていくのよ」

「コルネット、覚えてる?
笑顔は幸せをくれるおまじない。
昔、まだ小さかったコルネットに教えてあげたおまじない。

・・・あたしはコルネットの笑顔が大好きよ。
だから、笑って見送ってほしいの」

「おかぁさん・・・」

「ほら、もう泣かないの!
そんな顔してたら、王子さまに嫌われちゃうわよ!
それに、せっかくのウエディングドレス姿も台無しになっちゃうわ」

「うん・・・」

溢れ出る涙を拭うと、コルネットはとびきりの笑顔をシェリーに見せた。

「そうそう!やっぱりコルネットには笑顔がいちばん似合うわ」

「ありがとう、コルネット・・・」

シェリーはふわりと夜空へ飛び立ち、やがて姿が見えなくなった。

シェリーの姿が消えた夜空から数枚の羽が舞い落ちてきた。

白い羽が舞い散るテラスに残されたコルネットは、人形クルルをぎゅっ、と両腕で抱きしめる。

「おかあさん・・・」

「・・・コルネット・・・?」

フェルがテラスへ出て来ると、コルネットの名を呼ぶ。

コルネットは涙でぬれた目を拭くと、笑顔で振り返った――

*

コルネットが幸せを掴んだのを見届けたあたしは、天へ還る――

「コルネット・・・、幸せって笑顔で言ってくれた」

あの子の幸せが自分のことの様に嬉しくて・・・

でも――

・・・あたしは・・・どうだろう・・・

幸せか?不幸か?
それはあたしにもわからないけれど・・・

でも。

「シェリー」

マリウスが両手を差し出し、優しくあたしの名前を呼んだ。

「マリウス・・・。
・・あたし、がんばったよね・・・?

「ああ、シェリーは頑張ったよ、本当に。」

そう言ってマリウスはあたしを抱きしめてくれた。

「うん・・・うんっ・・・」

マリウスと会うまでは頑張れたんだけど・・・
抱きしめられて
あたしは涙が止まらなくなった。

コルネットには泣かないで、って言ったのに・・・

あたしは自分が幸せかどうかわからないけれど、
これだけは言えるわ。

それは・・・

”自分の人生に満足していること”

あのとき・・・死んでしまったことは決して幸せではないけれど、
人形クルルとしてではなく、母「シェリー」として
あの子の成長を見守っていきたかったけれど・・・。

自分の娘の幸せを見届けることができて、母親としてこれほど幸せなことはないわ。
あたしはコルネットが自分の娘で本当に良かったと思っているわ。
そして、誇りに思う。

出会いがあるから
別れがある。

辛いことや悲しいことがあるから
幸せがある。

人はみんなこれを乗り越えて成長していく。

愛の輪は巡り、いつかまた会える日まで――

愛しき人に

―――変わらぬ愛を、そして祝福を―――

*fin*

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