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ジェリービーンズ 小説


Happy happy berthday♪

今日のマール城は早朝から慌しい。

いつも静かな城内はいろいろな物音で賑やかだ。
ガラス製品のふれあう音、紙の擦れ合うガサガサという音など・・・。

「あ!それはこっちにお願いね」

コルネット王妃がメイドたちに何事か指示をしている。

「ねぇ、お母さま。間に合いそう?」

娘のクルルことクルセイル王女が母・コルネットに不安げに声をかける。

「そうねぇ・・・。あとはこの会場だけなんだけど――
あっ!いけない!!お料理オーブンに入れっぱなしだわ!!」

そういうなり王妃はドレスの裾を両手で軽く持ち上げ、厨房へと駆けていく。

「だいじょうぶかなぁ〜」

クルルはさらに不安げにため息をついた。

*

事の始まりは昨日の夜のこと・・・。

夕食後、コルネット王妃は自室で読書をしていた。

「今日はもうこの辺でやめようかしら。」

今日読んだページにしおりを挟もうとテーブルに手を伸ばそうとした、そのとき。

急に窓から淡い光が射し込んできた。

「?!」

驚いた王妃が窓を開けると、そこには
長い金の髪と背に4枚の純白の翼を持つ天使のような姿の女性が羽ばたいていた。
コルネットの母・シェリーである。

シェリーはゆっくりとテラスに降り立つと懐かしそうに
コルネットの顔を見つめる。

「久しぶりね、コルネット」

にっこりと微笑むシェリーにコルネットは驚きの色を隠せない。

「お・・・お母さん?!なんでここに・・・」

「もう、そんなに驚かないでよ」

「驚かないでって、普通驚くわよ」

立ち話も何なのでコルネットはシェリーを部屋へ招き入れた。

温かい紅茶をティーカップへ注ぐと、シェリーの前に差し出す。

「急にどうしたの?お父さんは??」

ふかふかのソファーに沈むように座るシェリーに苦笑しながら尋ねる。

「明日は特別な日だからわざわざ降りてきたのよ。
あ、お父さん?一緒に行こうって言ったんだけど爆睡してたからおいてきたわ。」

シェリーは当たり前のようにさらりと軽く答えた。

そして紅茶を一口飲むと、シェリーはとびきり嬉しそうな笑顔になる。

「あ!この紅茶はさくらんぼの紅茶ね♪おいしいわ〜」

そんな母を見てコルネットはちょっと呆れ顔。

「おいてきたって・・・(汗) ??特別な日・・・?」

「まぁ、忘れてるのね!」

愛娘の言葉にシェリーはぷぅと頬を膨らませる。

11月1日。

この日は 母・シェリーの誕生日。

「あ!お母さんのお誕生日!!」

「そうよ。よかったわ、思い出してくれて」

そう言うシェリーの顔は心から安心した様だ。

「ねぇ、お母さん。明日また来れる?」

「もっちろん♪ちゃんと許可もらってあるから大丈夫!」

シェリーは満面の笑顔でVサイン。

「じゃあ、明日はお誕生会決定ね!」

こうしてコルネット王妃の母、シェリー・エスポワールのバースデーパーティーを催すことになったのだ。

*

「ねぇ知ってる?今日、コルネットさまのお母さま、シェリーさまが
いらっしゃるそうよ」

「え?本当?わたし、一度見てみたかったのよ」

メイド達の間ではこの話でもちきりである。

「あなたたち!早くしてね!!」

厨房から戻ってきた王妃にいきなり声をかけられたメイド達は、
驚いて一斉にそれぞれの持ち場に散っていった。

「ふぅ・・・。なんとか準備できたみたいね」

なんとか準備が整ったマール城。

パーティー開始は午後7時。

主席者は主役のシェリーとその夫・マリウスと国王ファミリー。

一方、天国では

マリウスは眠たそうな顔をしている。

出かける時間ギリギリまで寝ていたのを妻に無理やり連れてこられたのだ。

「マリウスってば!昨日話したのになんで寝てるのよ〜!」

「なんでオレまで行かなくちゃなんないんだよ・・・(寝てた方がいいんだよなぁ〜)」

「何か言ったかしら?」

ぼやくマリウスにシェリーはにっこりと満面の笑顔で聞き返す。
手にはしっかりと巨大ハリセンが握りしめられているのを目撃したマリウスは
慌てて否定する。

「い・・・いや、昨日遅くまでシェリーが帰ってくるのを待ってたから
眠かっただけなんだ・・・(やばい。あれ(ハリセン)持ってるって事はかなり本気だ・・・)」

「まぁいいわ。さっ、出かけましょ!」

シェリーはマリウスの手をぐいと掴むと強引に出発!

そんなこんなで地上(マール城)へ到着。

マール城ではコルネットに話を聞いたエトワールとクレアが
コルネット達と待っていた。

「お久しぶりですわね、シェリーおば様」

うっ・・・
エトワールちゃんてば、まだあたしのこと”おば様”って呼ぶのね・・・(涙)

シェリーは心の中で呟く。

「コルネットからお話を聞いて、これをシェリーおば様に差し上げようと思って待ってましたの」

エトワールが使いの者に合図をすると、少し大きめの包みが運ばれてきた。

「なぁに?」

シェリーは不思議そうにその包みを眺めている。

「お母さん、開けてみて」

コルネットに言われて包みを開けると、シルクとケミカルレースをたっぷりと使った
淡いパープルカラーのドレスが入っていた。

「これは?!」

「ワタクシからのバースデープレゼントですわ。
今日のパーティーに着てくださいませ♪
すぐに着られるようにちゃんとパニエと髪飾りも入ってますわよ」

「で、でもこんなに高そうなモノ、もらっちゃっていいの?」

「大丈夫よ!エトワールにしてみれば”高価”じゃないんだから♪」

「コルネットは一言余計ですわ」

「ホントのことなんだからいいじゃない」

そんな2人のやり取りを見ていたシェリーはくすくすと笑う。

「ありがとう、エトワールちゃん。じゃ、早速着替えようかしら」

「ねぇ、マリウス!どうかしら?」

控え室で着替えを終えたシェリーが廊下で待っていたマリウスに声をかける。

「ん〜?・・・!!」

ドレスに身を包み、長い金の髪をアップにしたシェリーを見たとたん、マリウスは顔を赤くしながら逃げるように
どこかへ行ってしまった。

途中、何度かコケながらも必死でその場から逃走。

「んもぅ!なによ、マリウスったら!”きれいだよ”の一言くらい言ってくれたっていいじゃない!!」

午後7時。

マール城のパーティーホールにてシェリー・エスポワールのバースデーパーティーの始まりである。

「お誕生日おめでとう!」

娘のコルネットやフェル、孫娘のクルルやチェロ達からお祝いの言葉をもらう。

マリウスは窓際の方でフェルやチェロと楽しそうに話をしている。

「ふふ、おかあさんとこうして一緒にいられるなんて夢みたい」

コルネットは子供のような笑顔でシェリーの隣に座る。

「夢じゃないわよ。あたしは今、コルネットと一緒よ」

「お母さん・・・」

シェリーの優しい声を聞いたとたん、コルネットの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「コルネット・・・」

そんな愛娘の髪を愛しそうに優しく優しく撫でる。

「ふふ。コルネットったら。大人になってもまだ子供みたい」

「だって・・・。もう会えないって思ってたから嬉しくて・・・懐かしくて・・・」

そんなコルネットを慈愛に満ちた優しい瞳で見つめる。

「あたしね、いつも天国からあなたやクルル達のことを見ていたのよ」

「いつでも自由に行き来できればいいんだけど・・・。今日みたいに特別な日じゃなければ
こっちには来れなくて・・・辛かった」

最後の言葉は少し震える。

シェリーの腕の中でコルネットはそっと呟く。

「わたしも、辛かったよ・・・」

あのとき。
おかあさんと別れてからしばらくは悲しくて寂しくて・・・とても辛かった。

別れがあるから出会いもある。
信じていればいつかきっとまた会える――

「あのときのおかあさんの言葉・・・本当だね」

「コルネット?」

「またおかあさんに会えたんだもん」

信じていたから、また会えたんだよね?

「お母さま、おばあさま!こっちでケーキ食べようよ♪」

クルルが楽しそうに駆け寄ってきた。
今日はクルル姫も”カボチャパンツ”ではなく、王女らしいドレス姿だ。

コルネットは涙を拭うと、とびきりの笑顔をシェリーに向ける。

「行こ、お母さん」

「ええ♪」

楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

「もうこんな時間・・・。そろそろ帰らなくちゃ」

それまで笑顔だったシェリーの表情が淋しげなものに変わる。

「マリウス。そろそろ帰らないと・・・」

「ああ。もっと居たいけど仕方ないもんな〜」

シェリーは深く息を吸うと愛しい家族へ感謝の気持ちを伝える。

「みんな、今日は本当にありがとう!
こんなに楽しいお誕生日をむかえられてあたし、すごく感謝しているわ・・・。
あたしは・・・」

せっかくの楽しいパーティーなんだから、泣かないって決めてたのに・・・

頬を伝う涙が暖かい・・・

「あたし・・・幸せだよ・・・」

「シェリー」

隣に立っていたマリウスがあたしを優しく抱きしめる。

「お母さん・・・また会えるよね?」

コルネットが不安げな表情を浮かべている。

シェリーは溢れる涙を拭うと、とびきりの明るい笑顔で答えた。

「もちろんよ!・・・大丈夫、信じていればいつかきっとまた会えるわ・・・」

必ず―-。

「みんな、幸せそうだったね」

ぽつり、と呟く。

「ああ・・・」

マリウスはちょっと寂しそうに答える。

「シェリー」

「なに?」

「今日のおまえ・・・」

「?」

マリウスってばどうして顔赤いのかしら?

「そ・・・その・・・」

すると今度は深呼吸ひとつ。

「今日のシェリーはいつも以上に・・・きれいだったよ///ドレスも似合ってたし」

「あ・・・ありがとう///」

子供の頃から素直じゃなかったマリウスにいきなりこんなこと言われると・・・
照れちゃうわ・・・///

でも・・・ありがとう

あなたのその言葉、誕生日プレゼントにするわ。

賑やかな誕生日迎えられたこと、あなたのその言葉は
あたしにとって最高のプレゼントね――

こんなにも愛しい人がいて。

そしてあたしを想ってくれる人がいて・・・。

あたしは今

とても幸せです

fin

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