(書き下ろしss。人形館のくるるちゃんとぺこさんに捧げます♪)
「ん〜!今日もいいお天気!」
シェリーは庭で大きく伸びをする。
「さて、早く洗濯物干さなくちゃ」
今日はジークリンデちゃんがお城のお勤めがお休みで、あたしも教会のお勤めがお休みなのでふたりで出かけることになっているの。
そういえば、朝起きたときマリウスの姿が見えなかった。
朝早くからどこかにスケッチにでも行ってるのかしら?
「言ってくれればお弁当作ってあげたのに。」
そんな独り言を言っていたらムスタキおじさんがあたしを呼ぶ声がした。
「シェリーや。友達が来たぞ」
「はぁーい!」
ジークリンデちゃんってば来るのが早い!!
あたしは慌てて家の中へと入っていった。
***
「ごめんねぇ、ジークリンデちゃん」
「あ、シェリーおねえさま!早く行きましょ!」
ジークリンデちゃんはあたしの腕を掴むと、早く早く、と急かす。
***
「今日はどこへ行く?」
「ん〜、わたしねぇ、マザーグリーンにお買い物に行きたいな♪」
ジークリンデちゃんの提案に即賛成。
「よし、じゃあマザーグリーンに向けてしゅぱーつ!」
***
マザーグリーン。
ここは城下町というだけあって人が沢山いて活気に満ち溢れている。
町の入り口には大きな噴水があって、その中心には古代人をモチーフにした女神像が立っている。
「わたしねぇ、この女神像ってシェリーおねえさまに似てるなぁ〜って思うのよ」
どきっ
いきなりジークリンデちゃんがこんなことを言い出したからあたしは内心どきりとした。
あたしが本当の古代人だってわかっちゃったかなって。
「そ、そうかな〜?あたしって女神さまみたいにきれい?」
これ、誤魔化すためにわざと言ったんだけど・・・。
ジークリンデちゃんったら「うん!」ってハッキリ言うんだもん。
「で、でもほら、あたしには翼なんてないし」
(もちろん翼があるなんて言えるわけがない)
「そうだけど、でもシェリーおねえさまに翼があったら本物の女神さまよね♪」
「あ・・・ありがとう///」
ジークリンデちゃんは素直な子だから嘘なんて言わない。
つまり、この言葉も嘘じゃないってことで・・・。
嬉しいのと恥ずかしいのとで、あたしは照れてしまった。
***
「あっ、このティーカップ可愛い♪」
マザーグリーンにある雑貨屋さんでとっても可愛いティーカップを見つけた。
色違いでお揃いのティーカップ。
(これ・・・マリウスに買っていこうかな)
「どれどれ、”とっても可愛いティーカップが入荷しました。恋に効く魔法がかけられているので、
あなたの恋も叶うかも?!”だって」
いきなりジークリンデちゃんがティーカップが並んでいる棚に掛けてある、プレートの文字を声に出して読む。
「え゛っ!ジ、ジークリンデちゃん?!」
「へぇ〜、ねぇシェリーおねえさま。これ買っていくんでしょ?」
「え?ど、どうして??」
「あれ〜?買わないの〜?いいと思うんだけどな♪」
ジークリンデちゃんの言ったこの言葉、この時はまだわからなかった。
***
雑貨屋さんを出て、次はどこに行こうか考えているとジークリンデちゃんがオープンしたばかりのケーキ屋さんがあるから
行ってみない?と提案してくれたので、そこへ行くことにした。
外観はレンガ作りの、今までにはないちょっとオシャレなお店。
木の扉を開けるとカラン♪とベルの音がして、お客さんが来たのを知らせる。
「あたし、マザーグリーンに新しいお店が出来たなんて知らなかったわ〜」
ジークリンデちゃんは自称”恋愛博士”だけど、こういう情報にも詳しい。
「うふふ♪この間ねぇ、広場の掲示板にお知らせが書いてあったの。
オープンしたら絶対シェリーおねえさまと一緒に行こうって思ってたんだ♪」
「そうだったんだ〜。ありがとうジークリンデちゃん」
あたしたちはお店の奥にある、窓際の席についた。
「シェリーおねえさまは何にする?」
メニューを見ると沢山あって何がいいか迷っちゃう。
「ん〜、オレンジタルトにイチゴショート、チョコレートケーキ・・・みんな美味しそうなんだけど・・・」
ふと、さくらんぼの文字に目が止まった。
「あ、あたしさくらんぼパイとさくらんぼの紅茶がいいわ」
ジークリンデちゃんがくすくすと笑い出したからなにが可笑しいのかな?と疑問に思っていると。
「やっぱり♪シェリーおねえさまはさくらんぼが大好きだから選ぶかな〜?と思ったんだ♪」
「あはは、ジークリンデちゃんにはなんでもお見通しね〜」
「じゃ〜、わたしはモンブランとロイヤルミルクティー!」
***
久しぶりにたくさん色々なことをお話して、時がたつのも忘れてしまうほどお喋りに夢中になった。
そういえば・・・。
子供の頃、王女である自分には自由がないってキール兄さまに言ったことがあったっけ。
『シェリーは自由になってなにをしたい?』
そう兄さまに聞かれてあたしはこう答えたのよね。
『あたしは・・・普通の女の子みたいに
素敵な恋をしたり・・・お友達と街へお買い物に行ったり・・・
そういうことをしてみたいの』
今・・・あたしは子供の頃にはできなかったことをしている。
・・・子供のあたしが憧れていた”自由”
『いつか、叶うときが来るよ。
シェリーの求めている自由が・・・』
あのとき、兄さまはこう言った。
・・・キール兄さまは知っていた?
偶然・・・なのかもしれないけれど・・・。
***
お店を出ると、空はオレンジ色の夕日に包まれていた。
「今日はとっても楽しかったわ。ありがとうジークリンデちゃん」
「こちらこそ、シェリーおねえさまとお買い物に行けて楽しかったわ。お茶もできたしね♪」
「ねぇ、ジークリンデちゃん」
「なぁに?」
「また誘ってくれる?」
「もっちろん!また誘っちゃう♪」
ジークリンデちゃんはウインクをして明るく笑う。
(そうだ、今度はあたしから誘ってみよう。不思議の森にお弁当持って行くのも楽しそうだし♪)
「それじゃ、あたしは夕飯の支度をしなくちゃ行けないからそろそろ帰るわね」
「うん、”彼”にもよろしくね♪」
そう言うとジークリンデちゃんは家のある方へ駆けて行った。
「かっ、彼?!」
(だ、誰のこと?・・・もしかしてマリウス?!)
つくづくジークリンデちゃんって鋭いなあ、と実感した瞬間でした。
ジークリンデちゃんはあたしがマリウスのこと、好きだって知ってたのね。
だから雑貨屋さんでジークリンデちゃんが言ったあの言葉の意味は・・・。
***
家に帰ると、やっぱりマリウスはいなかった。
一体どこまでスケッチに行ったのかしら?
ムスタキおじさんは用事があるとかで夕飯の時間には帰れないって言っていたから、家にはあたし一人。
今日はマリウスの好きな納豆カレーを作った。
今日のは特別で、あたしのオリジナル。
チーズ入りの納豆カレー。
納豆とチーズって意外な組み合わせだけど、けっこう美味しいと思う。
味見をしたら美味しかったもの。
「マリウスまだかなぁ。せっかく頑張って作ったのに冷めちゃうわ」
そのとき、ドアの閉まる音がした。
帰ってきた?!
慌てて玄関まで駆けて行くと、大きなキャンバスを抱えたマリウスがいた。
「おかえりなさい」
一瞬、驚いたような表情をしたマリウスががすぐに笑顔になった。
「ただいま、シェリー」
「その大きなキャンバス、なぁに?」
「あ・・・ああ、こ、これはまだ描き途中なんだ」
マリウスったら何で慌てているのかしら??
「朝早くからスケッチに行ってたの?」
「う、うん。まぁな」
むむっ。
どうしてそんな曖昧な返事するのかしら。
ちょっと怒りかけたんだけど。
はっ!いけない。今はそんなこと考えている場合じゃないわ。
***
「今日はシェリー特製の納豆カレーよ♪」
「おっ、うまそうだな」
「今日のは特別だから、美味しいわよ♪」
あたしの”気持ち”がこもっているから。
美味しそうに食べるマリウスの姿を見ていたら、だんだん胸がドキドキしてきた。
(ど、どうしよう・・・。ドキドキしてきちゃった・・・。)
膝の上に置いた両手にぎゅっと力を入れる。
(ダメよシェリー!女は行動力でしょ!!)
そう自分に言い聞かせて
あたしは深呼吸をひとつ。
「マ・・・マリウス」
「?なんだ?」
あたしは緊張で震える手に力を込めて包みを差し出す。
その中身は――-。
そう、あの雑貨屋さんで見つけたティーカップ。
こっそりとジークリンデちゃんには内緒で買っていた。
「これをオレに・・・?」
マリウスは照れているのか微妙に顔が赤い。
「うん。今日ねジークリンデちゃんとマザーグリーンにお買い物に行ったときに見つけたの。
・・・あたしもお揃いで買ったのよ」
(えっ、シェリーとお揃い?やったー!!)
このとき、マリウスがこんなことを思っていたなんて、当然あたしは気がつきませんでした。
「シェリー。ありがとうな」
どきっ。
マリウスの笑顔と言葉に今度はあたしが顔を赤くしてしまう。
「お店でこのティーカップを見つけたときにね、真っ先にマリウスにあげようって思ったの」
「迷惑だったらどうしようって思ったけど喜んでもらえてほっとしたわ〜」
ほっとした筈なのに、あたしの胸はまだドキドキしてる。
どうしてかしら?
ジークリンデちゃんのあの言葉を聞いてから、余計にマリウスのことが気になってしまう。
自分よりもジークリンデちゃんが先に”想い”に気がつくなんて・・・。
このとき、あたしは”本当の自分の気持ち”に気づいたんだと思います――。
fin
05/10/20 仕上げ06/03/05
このssはクルル人形館のくるるちゃんとぺこさんに捧げます♪
ちなみにこのssは”飛べない天使”とリンクしている箇所があります。
そちらを読んでからこれを読むとわかります。
時期はゲーム本編でマリウスがオレンジ村に帰ってきた頃。
大きなキャンバスはもちろん、シェリーさんの肖像画を描いてプロポーズするためのものです。
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