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ジェリービーンズ 小説


ラブラブスイート♪チェリーパイ

ある晴れた日。

のどかなオレンジ村での出来事・・・

村いちばんの美人、シェリーの愛娘のコルネットは幼なじみのエトワールと共にマザーグリーンにあるマール城へと遊びに出かけた。

以前では考えられないが、シェリーを゛お姉さま″と慕っているジークリンデがミスマールコンテストで優勝し、国王に見初められて結婚。

後にマール王国王妃となってからは、一般市民も自由に城内を見学できるようになったのである。

今日は、コルネットとエトワールはジークリンデ王妃にお城にお呼ばれしたのである。

「それじゃ いってきま〜す♪」

庭で洗濯物を干していたシェリーに、コルネットは元気よくいってきます、のあいさつをした。

「いってらっしゃい。あんまり遅くまで遊んでちゃダメよ!」

「はぁ〜い♪」

「いこっ えとわーるちゃん♪」

「こるねっとちゃん まって〜」

「気をつけてね!」

幼い娘たちは、仲良く手を繋いでマール城へと出発した。

「ふふっ、子供は元気よねぇ」

洗濯物を干し終えて、家の中へ入ろうとしたそのとき--------。

一瞬、シェリーの目の前が白い光でいっぱいになった。

そっと目を開けると、そこには・・・

「マッ、マリウス?!」

そう、そこにはシェリーの夫であり、コルネットの父マリウスが笑顔で立っていた。

どうして?!マリウスは-----・・・

驚きを隠せないシェリーに、マリウスはごく自然に明るく声をかける。

「久しぶり♪元気だったか?」

「うん。元気よ」

あまりの自然さにシェリーもつられて自然に答えてしまう。

「・・・って、そーじゃなくて!」

「なんでマリウスがここにいるの・・・?」

「なんだよ。せっかく会いにきたのに」

マリウスはシェリーから視線をそらし、かなり不満顔。

「だって・・・。もう会えないって思ってたから嬉しくて・・・」

涙の浮かぶ瞳で、マリウスに抱きつくシェリー。

マリウスは愛しい妻の肩をしっかりと抱きしめる。

「シェリー。オレもまたおまえに会えて嬉しいよ」

優しく囁く。

「?!」

「ん?どうした?」

シェリーは確かめるようにマリウスの頬に触れて、服をつまんでみる。

「触れる・・・」

呆然としているシェリーにマリウスはさらりと答えた。

「ああ。上(天国)から、一日だけ里帰りしてもいいって言われたからな」

さ、里帰り?!

目を丸くするシェリー。

マリウスは辺りを見回すと、シェリーにとびきりの笑顔で尋ねる。

「なぁ、シェリー。コルネットは?」

「コルネットなら、ついさっきエトワールちゃんとマール城に遊びに行ったわよ」

そう聞くなりマリウスはしょんぼりと肩を落とす。

「なんだ・・・。やっとコルネットに会えると思って即行で来たのに」

マリウスは娘のコルネットが生まれる前に戦争で命を落としてしまった。

だからこの日を指折り数えて待っていたのである。

「まぁまぁ。夕方には帰ってくると思うわよ。多分

フォローになっていない一言である。

その頃、マール城ではジークリンデ王妃がコルネットとエトワールと共にお茶会をしていた。

「ねぇ、おうひさま。このけーき、すっごくおいしいねっ」

黙々とイチゴショートを食べていたコルネットが天使の笑顔でジークリンデに話しかける。

『きゃ〜っvvコルネットちゃんってばかっわい〜いvvvさっすがシェリーお姉さまの子供ね♪ウチのフェルのお嫁さんにほしいくらいだわvv』

ジークリンデは瞳を輝かせながら、幼いコルネットに釘付けである。

「おうひさま〜?」

・・・今のジークリンデには何も聞こえないようだ。

エトワールはというと、幼いながらも優雅な仕草で王室御用達の高級紅茶を飲んでいた。

さすが名門ローゼンクィーン家のお嬢さまである。

ただひたすらコルネットに釘付けのジークリンデ。

天使の笑顔でイチゴショートを頬張るコルネット。

優雅に紅茶を飲むエトワール。

わけのわからないお茶会は夕方に終了した。

「それじゃ。わたしたちはおうちにかえるね。おうひさま、またね♪」

「お邪魔いたしました」

無邪気に手をふるコルネットに、優雅にお辞儀をするエトワール。

「あっ、コルネットちゃん待って〜」

慌ててジークリンデが奥の部屋からカゴいっぱいのさくらんぼを持って出てきた。

「これ、シェリーお姉さま・・・じゃなくてお母さんに持っていってくれるかしら?」

「わぁ〜!さくらんぼだぁ♪」

宝石のように光り輝くさくらんぼにコルネットは瞳を輝かせる。

「ありがとう♪おうひさま。それじゃまたね!」

コルネットはマール城を後に急いで家へと帰る。

大好きなお母さんに早くさくらんぼを見せてあげたいから。

「ただいま♪おかあさ〜ん!」

「おかえりなさい、コルネット。」

台所で夕飯の準備をしていたシェリーに、コルネットはカゴいっぱいのさくらんぼを差し出した。

「まぁ!おいしそうなさくらんぼ♪こんなにいっぱいどうしたの?」

「あのねっ、おうひさまがね、おかあさんにってくれたの!」

ジークリンデちゃんが?

あたしがさくらんぼ大好きなの覚えててくれたのね♪

一方、台所のそばで立ち尽くしているマリウスにコルネットは全く気がつかない。

マリウスは帰ってきたコルネットを見た瞬間、あまりの我が子の可愛さにそのまま酔いしれていた。

次の日。

朝早くからシェリーはコルネットと一緒に、チェリーパイを作っていた。

パイ生地にさくらんぼを練りいれて、さくらんぼジャムをたっぷりと使って焼き上げるシェリーのオリジナル♪

さくらんぼの甘酸っぱい香りでマリウスは目を覚ました。

『おいしそうな匂いだな・・・。そっか。シェリーが何か作ってるんだな。シェリーの手作りの料理は久しぶりだから楽しみだな♪』

ワクワクしているマリウス。

しかし、迂闊にも再び眠ってしまった。

それから30分後。

「できたぁ♪」

とびきり嬉しそうなコルネット。

「上手く焼けたかしら?」

ちょっと不安そうにオーブンを覗き込むシェリー。

中にはこんがりとおいしそうな焼き色がついたチェリーパイが。

「大成功ね♪」

シェリーはコルネットににっこりと微笑む。

「さてと。」

それからまだ寝息をたてているマリウスのそばへ。

「マリウス!起きて。朝ごはんできてるんだから!」

シェリーはマリウスに声をかけたが、熟睡中のようだ。

「んもう!せっかくマリウスのために頑張って作ったのに!」

そういえば、マリウスってば朝はなかなか起きないのよねぇ。

「しょうがないわねぇ。コルネット!お父さん、ちょー熟睡してるからそっとしといて、あたしたちはお城へ出かけちゃいましょ。」

「こるねっと、おとうさんとあそびた〜い!」

「じゃあ、帰ってからにしよ?ね?」

「ん」

シェリーは焼きたてのチェリーパイをバスケットに入れる。

それから母と娘は仲良くマール城へと出かけていった。

2

マール城ではジークリンデ王妃がエスポワール親子を自室のテーブルでもてなしていた。

「ジークリンデちゃん、昨日はありがとう♪」

「シェリーお姉さま、喜んでいただけたかしら?」

「もっちろん♪それでね、今朝コルネットと一緒にチェリーパイを焼いてみたの。」

シェリーは持ってきたバスケットから焼きたてのチェリーパイをテーブルの上に出した。

「うわぁ、おいしそう♪」

シェリー特製のチェリーパイに瞳を輝かせるジークリンデ王妃。

「そうだわ!ねぇ シェリーお姉さま。これからお茶会にしません?」

「あら、いいわねぇ。そうしょっか!」

「こるねっとも〜!」

あっというまにお茶会の始まりである。

シェリーたちは楽しそうに会話をしながらお茶会を楽しんでいた。

最近の流行の服やアクセサリーの話。

子育ての話。

マザーグリーンにおいしいケーキ屋さんがオープンした話などなど話題は尽きない。

「あら、もうお昼なのね。 ジークリンデちゃん、あたしたちそろそろ帰るわ」

「そう?もっとお話したいのに残念」

「また遊びに来るわね。コルネット、ごあいさつは?」

「おうひさま、さようなら」

お行儀よくお辞儀をするコルネット。

「さようなら。絶対また遊びにきてね♪」

「ええ♪それじゃね」

3

「ただいま♪」

シェリーとコルネットが家へ帰るとマリウスがしょんぼりとうなだれていた。

「あら マリウス。どうしたの?」

「今朝何か作ってただろ?」

「あ、チェリーパイのこと?」

「あれならさっきジークリンデちゃんと一緒に食べたけど?」

「・・・・・。」

「ん?もしかして・・・食べたかった・・・とか?」

無言で頷くマリウス。

「どーせオレなんて・・・」

里帰りしてからというもの妻と娘にかまってもらえなかったマリウスくんは、これで完全にいじけてしまった。

「ごめーんvv許して、マリウス。ね?一生のお・ね・が・い♪」

「う・・・」

愛しい妻の一生のお願い&天使の微笑みにマリウスはかなり弱い。

そして虚しい気持ちを胸に抱いたまま、天国へ帰って行きました。

「結局、オレは何しに帰ってきたんだ・・・?」

どこまでもかわいそうなマリウスくんのかわいそうなお話。

02.6.28

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