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ジェリービーンズ 小説


心からのありがとう

暖かい気候に恵まれたこの村はオレンジの生産がマール王国一ということからオレンジ村と呼ばれている。

甘いオレンジの香りがひろがるこの村にある小さな教会。
ここに来るとあたしの心はいつも穏やかになる。

子供の頃、ライトofビューティーの力で未来の世界へ来たとき、あたしはここでの生活になじめなかった。

一緒にいたはずのチェロが気がついたときどこにもいなかった・・・。
ずっとずっと捜したけれど、チェロはみつからなかった。

それによくマリウスと喧嘩したわね。

そんなとき、この教会に来ると不思議と心が安らいでくる。

柔らかな光が色とりどりのステンドグラスを通して優しくあたしを包み込む。

祭壇の中央にある4枚の翼を持つ古代人をモチーフにした女神像の前で瞳を閉じ、両手を胸の前で合わせ歌を歌う。
コルネットによく歌ってあげるあの子守歌を・・・。

そして両膝を床につき、古代の神々に祈りを捧げる。

「古の神々よ。どうかあたしのコルネットをお守りください」

天を見上げ、そっとマリウスに語りかける。

「マリウス。あなたもコルネットのことを見守ってあげてね。明るくいい子に育つように・・・」
でも・・・本当は・・・

本当はあなたとずっと一緒にいたかったわ・・・

マリウス―─・・・

視界が涙で歪んでくる。

「おかあさん!」

コルネットの声に気がついて涙を拭いながら振り向くと、コルネットは両手に沢山の花を抱え息を弾ませながら
あたしのところへ駆け寄ってきた。

「はい!おかあさんにプレゼント!」

うっすらと額に汗をかきながら無邪気な笑顔であたしに花をさしだした。

「それから!」

コルネットは自分の体よりも大きなラッパを両手でしっかり持ち、小さな指を精一杯伸ばして顔を真っ赤にしながら曲を奏でる。
メロディーはあたしがコルネットに教えてあげた子守歌・・・

柔らかな音色が村中に響きわたる。

「おかあさん、おたんじょうびおめでとう!!」

「コルネット・・・。お母さんのお誕生日を覚えてくれたの?」

「うんっ!」
嬉しさと驚きで戸惑うあたしにコルネットは笑顔でこたえてくれた。
あたしの誕生日をまだ小さなコルネットが覚えてくれていたなんて・・・

「ありがとう、コルネット。ふふっ、ラッパの演奏上手になったわねぇ」

「えへへ、おかあさんのおたんじょうびにじょうずにふけるように、いっしょうけんめいれんしゅーしたんだよ」

「・・・!」

あたしは胸が熱くなってくるのを抑えきれなくなって、コルネットの小さな体を抱きしめた。

止めどなく涙が溢れ、小さな雫となって床をぬらす。
「ありがとう・・・」

「ありがとう、コルネット・・・!」

古代文明の時代、あたしはみんなから“希望の光”と言われていたけれど、あたしにはコルネットが希望の光だわ。

コルネットには夢をわすれず、明るく未来をあるいてほしい・・・

ねぇ、マリウス。これからもあたしたちを見守っていてね。
ねっ、一生のおねがい――・・・

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