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ジェリービーンズ 小説


『小さな約束』

1

午後のやわらかな陽射しが開け放たれた小さな窓から射し込み、
小さな陽だまりをつくっている。

気持ちのいいそよ風が優しくあたしの金の髪をさらっていく。

穏やかな時の中で、あたしは自分の中に宿る小さな命に歌を歌って聞かせてあげる。
あたしの大好きな子守歌・・・。

♪何よりも大切な 愛しい人よ・・・

そっと左手で腹部に触れると、
確かな命のぬくもりを感じる。
愛しいあの人がのこしてくれた 小さな小さな宝物。

その左手の薬指に光り輝く銀の指輪。

あの日--------・・・
マリウスはザリガニとプロポーズの言葉とこの指輪をくれた。

『覚えてるか?子供の頃、お前の誕生日にこいつをあげたっけな』
そう言ったマリウスの様子がちょっとおかしかったのを覚えてる。
顔を真っ赤にして、そわそわしてたみたいだった。
どうしたの?って口を開きかけたとき、まっすぐにあたしの瞳を見つめて真剣な顔で
『シェリー。オレと結婚してくれ』って・・・。

あの幸せなときから数年後。

彼は『絶対、無事に帰ってくるから』
そう言葉をのこして隣国との戦争へ行ってしまった。
あたしはこの言葉を信じて、マリウスの無事と帰りを祈り、待ちつづけた。
ずっとずっと。

でも------
彼は帰ってこなかった。

-------約束したじゃない。
絶対、無事に帰ってくるって約束したじゃない!!
ぽつり・・・。一粒の涙が頬を伝う。

それからのあたしは、笑顔を無くしてしまった。
深い悲しみに囚われていたあの頃のあたしのように。

毎日彼のことを想うたびに一人泣いていた。
あたしはまた・・・ひとりぼっちになってしまった。

悲しい気持ちが込み上げてきて、再び涙がこぼれそうになったそのとき-----
トクン。
「あ・・・!」

小さな命の鼓動がかすかに響く。

『おかあさん なかないで』

そんな言葉が聞こえたような気がした。
まるで、あたしを元気づけるかのように。

そうだ・・・。あたしはひとりぼっちじゃない。
あたしの愛したマリウスの命を受け継いだ愛しい子。
マリウスは死んでしまったけれど、あたしたちの中で今もちゃんと生きている。

耳を澄ませば ほら・・・。
『しっかりしろよ!シェリー。笑顔はどうした?』

マリウスの声が聞こえるわ。
優しく、でも叱るように。

「うん!笑顔がいちばんよね!」

まだ涙の浮かぶ瞳のままでとびきりの笑顔になる。

『そうそう!シェリーには笑顔がいちばん似合うんだから。だから・・・。もう泣くなよ!』

悲しみの涙がすうっと消えていく。

あたしを愛してくれたマリウスのために。
産まれてくる小さな命のために。
あたしはずっと笑顔でいよう。

ねぇ、マリウス。
約束するわ。

全ての役目が終わるその日まであたしは笑顔でいると。

2

溢れる光の中であたしは願った。
強く 強く。

「マリウス!あたしたちのコルネットを守って!!」

こんなところでコルネットを死なせるわけにはいかない!!
そう思った瞬間、あたしは全身の力をこめて
古代人としての力を解き放つ。
背には4枚の純白の翼が輝きを放っている。

紅い光とともに、古代兵器が最期に放った強い衝撃がコルネットに向かっていく。
-------ダメ!!
そう思った瞬間、あたしの体は自然と動いていた。
ドンッ!!!
強い衝撃が鈍い音とともにあたしの体に走り、白い羽がいくつも宙を舞う。

ふわり・・・とあたしの体が床に倒れこむ。

「おかぁさぁぁぁんっ!!」

コルネットが大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら駆け寄ってきた。
よかった・・・無事みたい。

「ごめんなさい!ごめんなさい!!こるねっとのせいで・・・」

「ふふ・・・おバカさんねぇ。あやまることなんてないわ」
震える指先でコルネットの涙をぬぐう。

「おかあさん おきてぇぇ!こるねっとがしあわせになるまで
そばにいるってやくそくしたじゃない!
ゆびきりしたじゃない!」

「・・・!!」
ふと数時間前の出来事を思い出す。

何気ない日常の中の幸せな時間・・・。
とても遠い過去のように思えてしまう。

「そうだったわね・・・。
・・・そうよ、お母さんはコルネットのそばにいるわ。コルネットが幸せになるまで・・・。」

だんだん意識が遠のいていく。

「おかあさん〜〜〜!しんじゃやだぁ〜〜〜!!」

顔を真っ赤にしながら泣きじゃくるコルネット。
その姿に胸がしめつけられるように痛む。

「ごめんね・・・。お母さん、もう、ちからが出ないの・・・」
「おねがい、コルネット。ラッパを吹いてちょうだい。
お母さんに最期のちからを・・・!」

コルネットは涙をこぼしながらも力づよくうなずき、ラッパを吹いてくれた。
とてもやさしい音色・・・

「泣かないで、コルネット。お母さんはいつも・・・いつもコルネットのそばにいるわ・・・!!」

そしてあたしは、最後のちからを振り絞って、古の神々に願った。
「いにしえの神々よ!最期の願いをっ!!」

最期の力で自分の魂を人形クルルへと宿した。

「コルネット・・・。あなたに会えて本当によかった・・・。ありがとう、コルネット・・・」

あなたがいてくれたから、あたしは約束を守れた。
どんなに辛いことも乗り越えてこれた。
ほんとうにありがとう・・・。

それからあたしは、人形クルルとしてコルネットとすごしてきた。
そして・・・。
コルネットが幸せをつかんだのを見届けた後、
天に還る────。

死んでしまった事は幸せなことじゃないと思うわ。
でもあたしは今、元気よ。

あたしのコルネットが立派に成長して、幸せをつかんだのを見届けられたんですもの。
母親にとってこれほど幸せなことはないわ。

全ての役目が終わって、天国でマリウスと再会したの。
「シェリー」
マリウスがやさしくあたしを抱きしめ、名前を呼ぶ。
「マリウス・・・!会いたかったわ・・・!!」

コルネットと別れるまではがんばれたんだけど・・・。

マリウスの顔を見たらね・・・。
思わず涙があふれてきたの。

「マリウス・・・。あたし、がんばったよね?」
マリウスに抱きしめられながら、そっと聞いてみた。

「ああ・・・。シェリーはがんばったよ。ほんとうに」

包み込むような優しい笑顔でそう言ってくれた。

あたしは自分が幸せかどうかなんてわからないけれど、
でも、これだけは言えるわ。
それは゛自分の人生に満足していること″

辛いことや悲しいこともたくさんあったけれど、
みんなに愛されて育ち、愛しい人と出会い、結ばれて・・・
そしてかけがえのない大切なコルネットを授かったこと・・・。

ねぇ マリウス。
これからもあたしたちのコルネットの幸せを見守っていきましょう。
ずっとずっと・・・。

古の神々よ。
一生のお願いです。
生まれ変わるときがきても、
また愛しい人と巡り合えますように――

02.6.16

このssの後半のシェリーさんのセリフはご本人の言葉です。
以前、日本一さんの携帯サイトでやっていた企画でいただいたシェリーさんからのメールを読んで
このお話を書こうと思いました。

ちなみにシェリーさんがコルネットとオレンジ村に住んでいたのは今から30年前らしいです。
”30年”というのは当時言っていたことなので、正確には30年くらい前かな?

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