イメージ上書き:翼を下さい

皆さんこんにちは。くるるです。今回はイメージ上書きシリーズ第1回、翼をくださいです。イメージ上書きシリーズとは、主に有名な歌にスポットを当て、その歌の歌詞から全く違う設定のショートストーリーを作り、そのイメージで歌のイメージを上書きしようと言う、ある意味はた迷惑なシリーズです(笑)。


翼をください

翼をくださいといえば、小学校で必ず習うと言っても過言ではないぐらい、有名な歌です。合唱コンクールなんかでも良く選曲されます。誰もが持っている「空を飛ぶ」という憧れをダイレクトに歌った名曲です。

歌詞を忘れた方は、歌ネット:翼をください歌詞をご覧ください。

ちょっと長めのショートストーリーです。


空に見る夢

12月10日(日)、僕は隣町にある病院に来ていた。この辺りで一番大きな総合病院だ。病院が休みという事もあって人影は少ない。僕は面会者用入り口から入り、3階にある病室へと向かった。

僕は301と書かれた病室の前で立ち止まった。入り口には僕の妹の名前が刻まれている。僕は静かにドアを開け、中に入っていった。

「あ、おにいちゃん」

窓際に置かれたベッドの上で、妹が嬉しそうにこっちを向いた。部屋は6畳ほどの一人部屋だ。彼女は生まれつき身体が弱く、この14年間のほとんどをこの病院で過ごしている。僕たちには親がいない。3年前、交通事故に遭い、二人とも死んでしまった。それ以来、お世話になっている隣町の叔母さんの家から、毎日この病院に通うのが僕の日課になった。

「はいこれ、叔母さんからのお土産。イチゴだってさ」

「わぁ嬉しい、私イチゴ大好き」

彼女がイチゴを食べていると、窓際に小鳥が数羽、集まってきた。この病院の周りは自然の公園になっていて、近くの山からよく小鳥達が遊びに来ている。そこで鳥好きな彼女のために、看護婦さんたちが窓際に、小鳥達の餌場を作ってくれていた。彼女は毎日そこで小鳥達に餌をあげているので、今日も餌を貰いに来たのだろう。

「まあツグミさん達、いらっしゃい。今日はとっても美味しいイチゴがあるのよ」

そういうと彼女は、食べていたイチゴを数個、餌場に置いた。小鳥たちは夢中で食べていたが、やがておなかがいっぱいになったのか、公園の方へ飛び去っていった。彼女はそんな小鳥達の姿を、嬉しそうに見ていた。

「いいなぁ・・・私もあんな風に飛べたら、もっと色々なところに行けるのに・・・」

「大丈夫、病気は必ず治るんだ。そしたら今まで行けなかった分、色んなところに連れてってあげるよ」

「うん・・・、ありがとうお兄ちゃん」

そう言った彼女の笑顔が、どことなく寂しそうな気がして、それ以上声をかける事ができなかった。

12月24日(日)、今日はクリスマスイブだ。街はすっかりクリスマス一色に染まっている。病院の隣の公園では、ひときわ大きな木に色とりどりの飾りが付けられ、立ち止まって楽しそうに話をする恋人たちで溢れかえっていた。僕は巨大なツリーを横目に、プレゼントを二つ持って妹のいる病室を訪れた。

「メリークリスマス」

そう言ってドアを開けると、妹が丁度ベットから起きようとしているところだった。

「あ、お兄ちゃん。メリークリスマス」

今日はいつもより具合がいいみたいだ。僕は妹が起きるのを手伝うと早速プレゼントを手渡した。

「はい、クリスマスプレゼント。それから・・・15歳の誕生日おめでとう」

「わあ嬉しい!ありがとうお兄ちゃん!ねぇ開けていい?」

「もちろんだよ」

早く中身を知りたくてうずうずしている彼女を促し、プレゼントを開けさせる。片方は野鳥の本、もう片方は小鳥をかたどった小さな銀のイヤリングだ。彼女は大喜びでイヤリングをつけると、嬉しそうに言った。

「ねえ、似合う?」

「うん、とっても似合うよ」

彼女は恥ずかしそうに笑うと、窓の外を少し寂しそうに眺めた。

「どうしたの?気に入らなかった?」

「ううん、そんな事ないよ、凄く嬉しい。ただ、外が騒がしいからかな、今日は小鳥さん達来ないなって・・・」

「今日は仕方ないさ、明日にはまたやってくるよ」

「うん、そうだね・・・。あのねお兄ちゃん、私、夢を見たんだ」

「夢?」

「うん、私が寝てたらね、窓から小鳥さん達が入ってきたの。私が起き上がると、みんな羽の生えた綺麗な女の人になって、私を迎えに来たっていうんだよ。そしたらいつのまにか私にも羽があって、それでみんなで空をお散歩したの。凄く気持ちよかったんだー。海に行ったり、雲の上に行ったり・・・。それでね、また明日来るから、その時は空のもっと上まで連れてってくれるんだって。だから凄く楽しみ・・・」

「ダメだ!」

僕はなぜだか言いようもない不安がこみ上げ、彼女に怒鳴りつけた。彼女は急に大声を出した僕に驚き、怯えたように言った。

「ど、どうしたの急に・・・なんか・・・怖いよ・・・」

「ご、ごめん。何かその・・・小鳥達について行っちゃ駄目な気がして・・・変だよね、ただの夢の話なのに・・・」

「そうだよ、ただの夢だよ、変なの。でも夢でもいいから、また空を飛んでみたいなぁ・・・」

そういう彼女はとても嬉しそうで、そんな彼女を見てさっき怒鳴ってしまった自分がとても恥ずかしかった。けど不安は完全に消えないまま、僕は病院を後にした。

その日の夜、僕は中々寝付けなかった。理由は昼間聞いた夢の話。あの時の不安がまだ残っていたからだ。僕はその不安の正体がわからないまま、布団にもぐりこんだ。

それは丁度ウトウトと寝付いた頃だった。夜中に電話が鳴り、僕は目が覚めた。1階からかすかに叔母さんの声が聞こえる。その声が急に鳴き声に変わった。僕が慌ててドアを開けると、階段から叔父さんが上がってくるところだった。

「病院へ行くから、すぐに準備をしなさい・・・」

僕の顔を見ないで言う叔父さんの態度が、電話の内容を物語っていた。

病院に着くと、看護婦さんが病室まで案内してくれた。看護婦さんは病室の前で止まり、言った。

「お別れが済んだら、呼んでください」

僕はその言葉に気づかず、病室のドアを開けて中に入った。月明かりが部屋を薄暗く照らしている。見慣れた病室が、やけに広く感じた。誰かが電気をつけたらしい、蛍光灯の明かりが部屋を照らし出した。

彼女は特に変わった様子もなく、ベッドに横たわっていた。見るとイヤリングをつけたままで、僕がプレゼントした本を抱いている。僕にはまだ信じられなかった。今にも彼女が起きてきて、いつものように笑顔を向けてくれる気がした。なのになぜか涙が溢れて止まらなかった。僕は彼女のほほにそっと触れた。その感触が引き金となって、僕は声を上げて泣き出した。信じられなかった、いや信じたくなかった。僕は彼女に抱きついたまま泣き叫んだ。

「なんで!なんでだよ!さっきまであんなに元気だったのに!ついさっき、俺はここで話したんだ!プレゼントを渡して!凄く元気そうだった!なのに・・・なんで・・・」

その問に答える人は誰もいなかった。後ろから誰かがすすり泣く声が聞こえたような気がする。しかしそんな声を掻き消すように、僕は泣き続けた。

数日後、僕は彼女の入院していた頃の荷物を片付けていた。通夜の時、彼女の棺に一緒に入れてあげるものを探すためだ。本当は最後にプレゼントした2つを入れてあげたかったのだが、金属や本は火葬の際に燃えきらないからと断られてしまったのだ。だから代わりになるものを探しているのだが、中々良いものが見つからない。困っていると、服の間から見慣れないクリスマスカードが出てきた。中を開けてみると、それはサンタさんへの手紙だった。

サンタさんへ。
どうか私のお願いを聞いてください。
私は空を飛んでみたいです。
私は病院から出た事がありません。
だから外の世界の事は写真やテレビでしか知りません。
でも自分の目で見てみたいです。
もし私に小鳥さん達のような翼あれば、どこまでだって飛んでいけるでしょう?
だからお願いです。
私に、翼をください。
私は小鳥さん達と一緒に雲の上まで行ってみたいです。
そうしたら外で遊べなくて悲しい思いをしなくても済むし、空の上にいるお父さんやお母さんにも会えるかもしれないし。
だからお願いです。
翼をください。
もし願いがかなうなら、来年からはどんなプレゼントもいりません。
私に・・・自由をください。

その手紙には12月23日と日付が書いてあった。もしかしたら、彼女の願いは聞き届けられたのかもしれない。あの夢は本当のことだったのかもしれない。もしそうだとすると、彼女は今、大空を自由に飛びまわっていることだろう。ふと窓を見ると見覚えのあるような小鳥が、庭先の木の枝から飛び立っていった。僕はその鳥の名前を思い出せなかったが、その鳥が向かった先に彼女がいるような気がして、いつまでもその姿を見つめていた。


あとがき

この話を読んだ後、歌を聞いて今までとイメージが変わったら上書き成功です。まあ表現を控えめにしたので、涙で歌えなくなるとか、そういう事はないと思いますけど、もしそういう人がいたらごめんなさい。

歌詞を忘れた方は、歌ネット:翼をください歌詞をご覧ください。


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